小さな会社を預かるある後継者、彼が一人の社員を採用しました。

面接ではとても印象の良い人だったのですが、仕事を始めてビックリ!先輩社員が行った説明を聞いていないのか、全く違う方法で仕事をします。先輩が注意しても「そんな話は聞いていない」と言い張ります。

だんだんと先輩社員の方が参ってきて、後継者に「辞めたい」とまで言うようになってきました。

たった一人の新入社員の影響で、有能な社員を失っては大変です。後継者は現状把握を行うべく、聞き取り調査を行いました。

新入社員の方はどうやら、全く悪気も無ければ罪悪感も無い様子。自分の主張は当然だと言わんばかりの態度です。

ただ、それが先輩への反抗とか、ワガママから来るものでは無く、純粋に自分が正しいと信じ込んでいる様子に見えます。

 

こうなると話は平行線です。後継者はどちらの味方をするのか?という究極の選択に晒されました。

その結論を出す時間を稼ぐために、新入社員には一人で出来る仕事を依頼しました。それは会社のブログによる情報発信でした。多くの人が関心を持つ記事をきっかけに、会社の技術や商品に興味を持ってもらいたいと考えていた矢先でした。

先輩とは上手くいかなかった新入社員ですが、一人でやる仕事には絶大な能力を発揮し始めました。

ブログ担当になってからは、まだ十分でなかった業界知識を調べ、様々な記事を次々と生み出し、ブログのアクセス数は日に日に上昇していきました。その社員は、休み時間も惜しんでブログの更新に集中し、後継者が心配して止めに入る位に没頭していたそうです。

結果として、零細企業が作ったブログとしては、相応の存在感のあるものになったそうです。

 

この時、後継者はこう考えたそうです。「今までは、会社の仕事の中に社員を組み込んできたように思う。しかし、社員の持っている能力を活かす形で会社を変化させるという方法も有るのか」と。

中小零細企業は一人何役もこなすことが求められる環境ですから、一人ひとりの特性を生かすというのも簡単なことではありません。

一方で、それぞれの社員に目が届く組織のサイズから考えると、一人ひとりを最大限活かすことが会社そのもののパフォーマンスを上げることに直結します。後継者にとっては、チャレンジし甲斐のある状況では無いかと思います。

 

先代の時代は、人を活かすというより、仕事の流れに人を組み込んだ方が効率は良かった様です。

経済が拡大方向に向かっていたので、商品を効率良く、たくさん市場に提供することを考えれば良かったのです。

一方現在は既にモノが世の中に溢れている中、経済規模が頭打ちとなっているため、同じ商品をたくさん作ったところで、売れ残りが出来る時代です。

安さが価値であった時代から、高くても満足できるという価値以外の価値を模索している時代では無いかと思います。この時期に効率ばかりを見ていると、大事なことを見失う可能性が高まります。

 

今のような時代の転換期に大事なのは、柔軟に変化を取り込むことのできる組織ではないでしょうか。

後継者一人で乗り切るというより、構成員の才を集め、一人ひとりの能力を最大限発揮させることが大事です。その前提として必要なのは、社員一人ひとりが本当に得意なことは何なのか?を知ることです。

私たちは意外と社員の得意技を知らないものです。今の業務の他に、彼らはどんな性質の仕事が得意なのでしょうか?どんな趣味を持っていて、どの程度の腕前なのでしょうか?そこを知ることで、次の一手を思いつくこともあるのではないでしょうか。

社員数1万人の会社ならば、1人の社員の能力は1万分の1に過ぎません。しかし、100人の会社なら、100分の1ですし、10人の会社なら10分の1です。

小さな組織ほど、一人の役割は大きいのです。そして、一人の能力を使い切ることが、次世代のリーダーに求められる能力と言えるかもしれません。

 

場合によっては、社員の特性に合わせて会社の仕組みを変えていくことも必要ではないかと思うこともあります。

特に社員のモチベーションが上がらないというお悩みをお持ちだとしたら、目線を社員の高さに持っていくことで、見えてくるものがあるかもしれません。

(参考文献:月刊次世代経営者2025年2月号)