経営者というものは、とかく自分を有能に見せたがる傾向があります。

その結果、後継者を「まだまだ」と言ったり、自分と同じやり方でなければよしとしなかったりと、後継者に劣等感を抱かせるような振る舞いをしてしまうことがあります。

もちろん、悪気があるわけではありません。相手を自分より低い位置に置くことで、自身のプライドを保つ言動を無意識に行ってしまうのです。「この傾向こそが経営者の原動力である」と言う心理学者もいます。

しかし、後継者はそんな先代の言葉を真に受け、何とかその劣等感から逃れようと必死に努力するのです。それは一見すると良い傾向だと思われるかもしれません。

ところが、そのことが後継者の独りよがりな行動に誘います。

結果、社内クーデターが起こったり、社員のモチベーションがダウンしたりと、会社を巻き込んでの大問題になることがあるのです。

例えば、後継者は一生懸命に勉強した内容から導き出した選択を、唯一正しいものだと信じ込み、誰の意見にも耳を貸さなくなることがあります。

経験を大事にしてきた先代とは、まさに水と油。先代との確執のキッカケになっている可能性があります。

そうなると社員の声など聞くに値しないと感じ、社員を道具のように扱うようになります。

影響はこれだけに留まらず、自分のことだけに集中したいがゆえに、家族との心理距離が離れます。

結果、家庭内が不安定になり、「人生ボロボロだ」と頭を抱えるようになります。

このような数々の問題は、自分の劣等感から引き起こされている可能性があります。

後継者が一生懸命に自分を高めようとするのは、劣等感から逃れ、自尊心を高めたいと思っている場合があるのです。

しかし、この自尊心は、他者から評価を受けなければなりません。こと親子承継において「他者」は先代に他なりません。

一方先代は、自分の能力を高く見せたいがため、無意識に周囲の人間を低く置こうとする傾向があります。

つまり、後継者が安心できるレベルで先代から認められることは、相当ハードルが高い課題です。

ただ「何としても認めさせてやる!」と突っ走るのではなく、戦略が必要になります。そしてそれが「自分を活かすこと」なのです。

 

具体的には、今まで一生懸命勉強した内容を俯瞰してみて、自信を持って他者に伝えられることを探してみます。

そしてその知見を他の人に勉強会等を開催して共有し、活用してもらうのです。

そうやって他人を軸に「この人たちの役に立つために出来ることは何か?」と自分に問い続けていると、間違いなく人望が集まります。

直接ビジネスに繋がらないことも多いかもしれませんが、自らの心が成長することで、家族や社員との関係は変わるはずです。

多少の時差はあれど、何かしらビジネスに良い影響が生まれます。

 

こんな話をすると、たまにボランティア活動にハマる方がいらっしゃいます。

自らの時間、お金を人のために使い、感謝される―。とても素晴らしいことだとは思いますが、自己犠牲をベースにするボランティアでは、劣等感から逃れることは出来ません。

ボランティアにハマる一部の人は、上手くいかない現実から目を逸らし、ボランティア活動ばかりに注力し、「現実逃避」をしているような方も目立ちます。

あくまでも大事なのは「自分の強みを活かし、他人や社会に役立つことをしよう」というスタンスです。

あなたの強みはあなただけが持つものです。例えば、一つのノウハウを100人の人が知っていても、あなたと同じバックグラウンド、経験、感情を持つ人は誰一人としていないはずです。

自分独自の活動だからこそ、それが人の役に立つことで、あなた自身があなたのことを認め始めます。

そしてあなたが自分を受け入れられたとき、一回り器の大きい経営者となることでしょう。そして事業もきっとよくなります。

「幸せや利益は自分の方へ引き寄せようとすると逃げていき、相手に与えようとすると自然と戻ってくる」。これは有名な二宮尊徳のたらいの水の法則ですが、そんな法則を活用してみませんか。

(参考文献:月刊次世代経営者2026年4月号)