後継者の視点で、未来に続く良い会社をつくるには、どうすれば良いのでしょうか?
ニッチ市場の独占?秀逸な戦略?全国展開?圧倒的な物量確保?他にも挙げれば色々ありますが、恐らくどれも決め手にならないのではないでしょうか。
というのも中小企業の経営を見ていて、社員が数十名になると、社長が社員とのコミュニケーションに使う時間がとても増えます。逆に、人が増えたのに社長が社員と向き合う時間を相応に取らなければ、たいてい組織はギクシャクします。
後継者が、大量退職や社員からのクーデターを経験しがちなのは、この社員と向き合う時間を十分確保していないことが多いからだと思われます。
つまり、会社をそれなりの規模に組織化していく過程では、しっかりとコミュニケーションを取る必要があるのです。
例えば、世界最古の企業として有名な金剛組は、社内に徒弟制度のようなものがあり、昔ながらの職人としての人間関係を保っているようです。
さて、優良企業と言われる会社の経営者の講演などを聞くと、社内の掃除や整理整頓を徹底的に行う、という話が頻出します。果たして、掃除で会社は良くなるのでしょうか?
確かに、来客があった時、掃除の行き届いたオフィスや工場は、とても良い印象を与えることができ、商談においてもプラスに働くかと思います。
整理整頓が行き届いていれば、効率も随分良くなりますし、事故防止にも繋がります。また衛生面も良くなることで、従業員の体調にも良い影響を及ぼしそうです。
とは言え、それだけで会社が良くなるというのは、今一つピンと来ない方もいらっしゃるかと思います。
ただ、徹底的に行う掃除が人としての修練、つまり本質的には「良い人を育てること」を目的とし、その手段であると考えたらどうでしょうか?
実は船井総研の創業者、故船井幸雄氏は1000年企業を作るコツを「良い人を育てること」の一言で表現していたのです。
そう考えると、掃除を徹底的に行うことで会社が良くなるということに合点がいくのではないでしょうか。
では良い人を育てるために何よりも大事なことは何なのでしょうか?
先にも申し上げましたが、やはりまずは社員としっかりコミュニケーションを取ることです。
それが出来ていなければ社員との信頼関係を構築できず、育てるフェーズまで進みません。
それだけでなく、リーダーたる後継者が人としての成長を遂げなければ、社員が勝手に追い越して成長することはありません。
つまり、後継者の人間的成長が1000年企業をつくる第一歩と言えるかもしれません。
ところで後継者の周囲は、様々な理不尽で溢れています。自分が上げた業績も、親の七光りと片づけられることもあるでしょう。自分が新たにやりたいことが、先代との衝突で自由に出来ないこともあるでしょう。
ただそれは、私たちが然るべき成長を遂げるための伏線なのかもしれません。そのコツは「現状をフラットに受け入れる」ということではないかと思うのです。
もちろん、周囲の意見に反発してでも自分の意見を通すという選択も否定はしません。実際、後継者の代で大躍進した企業は、過去先代との確執を経て、後継者の想いを強く主張し続けた結果です。
とはいえ、そうした会社は、後継者のカラーが強く出るため、次の事業承継は困難を極めるのではないでしょうか。
一方、1000年企業を目指すとしたら、自分の戦略というより、社員を育て、社員の意志を経営に反映させる工夫が必要では無いかと思います。
1000年企業の後継者は、歴史的人物といった名の残し方をしているケースは少ないと思います。社員と共に実直で小さな改善をコツコツと積み重ね続けることが、長く事業を続ける秘訣なのかもしれません。
どちらを選ぶかは、後継者であるアナタ次第。どちらが良いという訳でもなく、悪いという訳でもありません。
ただ、基本的な方針にブレが出ないよう「決めきる」ことが大事になるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
(参考文献:月刊次世代経営者2025年5月号)