後継者の皆さんは、先輩経営者から「社長は社員から嫌われてナンボ」とよく言われませんか?

 

この言葉をストレートに受け取ると「社員に迎合することなく、自分の道を突き進め!」となるのかもしれません。

ただ仕事中とはいえ、「嫌われ者」として生きるのは心地良いものではないですよね。

しかしその一方で上司と部下には相反する行動規準があることを認識していませんか?

言葉を選ばずに言うと「上司は部下を無駄なく働かせようとし、部下は上司の目を盗んで手を抜こうとする」という考えです。

その前提に立つのであれば「上司は常に部下を監視し、動かすことこそが大事な仕事で、部下との間には対立関係がある。だから、部下に好かれようとするのは誤りである」と受け止められると思います。

 

分かりやすく例えるのであれば、皆さんの中学校時代の体育の先生を思い出して下さい。

体育の先生というのはたいてい厳しいですよね。ところが、厳しいから嫌われているかというと、そういう先生ほど生徒の信頼を勝ち得ていたように思うのです。

何十年も経って同窓会で人気があるのは、往々にして厳しかった先生ではないでしょうか。

思い起こしてみるとそういう先生は「生徒から好かれるか、嫌われるか」という基準ではなく、「生徒の成長のため」という教育者としてのブレない軸があり、そこに忠実だっただけ。

厳しさの根底には生徒への愛があったということを、私たちは無意識に感じ取っていたのだと思います。

 

同じように、社員から好かれている社長が、必ずしも優しくて面倒見が良いかというと、そうとも限りません。

どんな個性を持つ経営者であれ、社員に好かれる経営者というのは、ブレない軸を持ち、経営にも社員との関係にも本気でぶつかっている人なのでは無いかと思うのです。

「こんな会社にしたい!」という思いがあり、そのために様々なやり方で社員の成長を促していく—そんな人です。

そう考えるとハナから「社員から好かれる」ことを目的にして行動するのは本末転倒で、むしろ逆効果になることが多くあります。

例えば、誰にでも良い顔をしようとすると、全ての社員の言うことを聞こうとします。

しかし誰もが満足する形に出来ることなどは稀で、それでも何とか利害を調整すればするほど時間は経過し、結果「決断が遅い!」と全ての社員がイライラするのです。

また問題がある行動を取っている社員がいても、それをはっきり指摘しないため、真摯に仕事をしている社員ほど心が離れてしまいます。

さらに「みんなで乗り切ろう!」が口癖にも関わらず、会社の情報は何一つ開示せず、社員は蚊帳の外。あちこちに気を遣い過ぎて社長の本心が見えず、何を目指しているのかが良く分からないから、社員はどう動いて良いのか分からないのです。

 

こういった経営者の「勘違い」を減らすには、まず経営者が何をやりたいのかを明確にする必要があります。

そのためには内に秘めるのではなく、しっかり言葉としてアウトプットしていかなければなりません。

さらに「好ましい行動」を社員が理解できるように、コミュニケーションにメリハリをつける必要があります。

良くやってくれたなら思い切り労い、望ましくない行動をする人がいればそれを正す。魅力的な経営者の指導は、社員にとって嬉しいものなのです。

そして「この経営者なら、ワクワクする未来を手にすることが出来るかもしれない」という熱意を社員が感じ取ることが出来れば、好きとか嫌いとかという次元を超えた関係になっていくのかもしれません。

 

経営者にとって大事なのは、社員に実現可能な夢を見せることなのではないでしょうか。

(参考文献:月刊次世代経営者2025年12月号)