親子の事業承継の中で、最も大きな課題の一つが「先代と後継者の意見の食い違い」です。

多くの場合、先代は過去の実績に重きを置き、後継者は未来の戦略に重きを置きます。

見えている世界が違うので、お互いの思いは平行線。この違いが親子の確執を生み、事業承継を難しくしています。

こんな時、一般的に「親子の対立を解決するには、しっかり対話をすべき」とアドバイスされることが多いと思います。

しかし、こと経営方針や事業戦略に関して先代と後継者との間に、意見の食い違いがある場合、対話をするタイミングや言い出し方には注意が必要です。

真っ向から意見が対立している親子が対話をすれば、相手の意見を変えさせるための説得合戦になりがちで、下手をすれば相手の人格を攻撃するような、泥沼の争いになってしまう可能性もあるからです。

その背景には、子には「親に認められたい」という感情があり、親もまた「子に認められたい」という欲求があります。

これはある意味それぞれの生存価値を示すものですから、根深い感情です。

こうした感情を守るために必死になるわけですから、いずれも自分の意見を譲ることはなかなかできません。

では、冷静な対話が出来ないフェーズにおいて、何をすれば良いのでしょうか?

 

実は、そのヒントは老舗企業の多くが持つ「家訓」にあるのではないかと思います。

企業において、経営理念を明文化しているケースは多くあります。それは、企業の存在意義や目的を記したものがほとんどです。

これはこれで大事なのですが、家訓の場合もう少し抽象度が上がり、「人としてどうあるべきか」を明文化したものであることが多いと思います。

もし、代々伝わる家訓があるとしたら、そこを判断基準として経営を行うという方向性を話し合ってはいかがでしょうか。

後継者と先代が対立した時、家訓に照らし合わせて経営判断を行うことは、お互いの考えのどちらが正しいかを争うより、コンセンサスを得やすいのではないかと思います。

 

ただ先代が叩き上げで事業を起こした創業者の場合、家訓が無いこともあるでしょう。

その場合は、お互いが認められる経営哲学などを教科書にするのも一案です。

例えば、先代が松下幸之助を尊敬しているのであれば、後継者も松下イズムを理解し、その経営哲学にコミットすることで、双方が共通に持つ価値観を作ることが出来るかと思います。

もちろん、時代に合わせて調整が必要になる部分もありますが、少しフレームを変えれば活かせます。

多くの場合、会社というのは、創業者が自身の夢を追って起業するものです。

立ち上がりはそのエネルギーこそが会社を育てますが、社員が増え、社会への影響力が高まってくると「個人の思い」だけでは成り立ちにくくなっていきます。

この際、多くの社員たちとのベクトルを合わせていくためにも、家訓や名経営者の経営哲学などを基準にすると効果的です。

 

創業社長の場合、会社に対する思い入れが強いあまり、なかなか後継者へバトンを渡す気持ちになれない傾向があります。

そうした社長がトップにいると、「社長の思いにコミットできるかどうか」が社員にとっての心理的な着地点になる場合があります。

仮にそれが独善的なものとなると、会社の発展を見込むのは難しくなりそうです。

しかし、価値観を自分の内側ではなく「外」に置くことで、次第に自分中心の思考から抜け出すことが出来ると私は考えています。

外側に価値観を置く、例えば「公共の利益を産むことにコミットする」ことで、凝り固まった考えを少しずつ変えていくことも出来るのではないでしょうか。

経営者の思考パターンが変化していくことで、会社は社会的価値を上げていくことが出来るようになり、末永く発展し続けることが出来るのです。

 

後継者が相反する意見を持つ先代に、何らかの意見を主張したいと思うなら、一見遠回りのようにも思えるかもしれませんが、そういった学びに先代を巻き込むことこそ、解決への近道になるのではないでしょうか。

(参考文献:月刊次世代経営者2026年1月号)