よく聞く話の一つに「先代が、自分が言ったことを守らない」というものがあります。
具体的には「〇歳で引退するから、準備をしておけ」と後継者に伝えたものの、その期限が来たとしても引退のそぶりも見せない。ひどい時は、「後継者の力不足」と後継者のせいにして、引退を引き延ばすケースもあると聞きます。
ただ先代の気持ちを慮るとすれば、昨日までやっていた日常を、ある日突然変えるということは本当に難しいことです。
というのも、それまで忙しくしていた人にとって、時間の空白が出来ることは、精神的にかえって苦しいものだからです。
しかしながら、そのままズルズルというのも組織にとって良くないので、上手く承継できる方法を考えなければなりません。
対策として、盛大なセレモニーを準備するのは如何でしょうか。決定打になるかは分かりませんが、気持ちのけじめはつけやすくなるでしょう。
日常的なコミュニケーションの中では、言葉はとても大事なものです。
しかし、人は無意識に言葉と行動のギャップを感じ取るものです。そして「言葉」では嘘がつけますが「行動」には嘘がありません。
例えば、会社経営において、立派な経営理念を作っても、なかなか浸透しないという話があります。
その場合、実はその経営理念に沿った行動や判断を、経営者自身が行っていないケースが見受けられます。
「お客様の笑顔を第一に」といった標語を掲げているのに、お客様の受け止め方を無視した効率化を行い、顧客サービスに徹していた社員ではなく、無理な営業を行ってでも売上を上げた社員が賞賛される—。
ここまで極端では無くとも、言行不一致から従業員との絆を築けない経営者は多いのではないでしょうか。
冒頭の話に戻ると、先代は「〇歳で引退する」と言ったのに行動は「今も現役」、ここに言行不一致があります。本音は後者です。
先代の行動を見ながら、本音がどこにあるのかを捉えておくといいかもしれません。
例えば、「体力的にしんどいから早く引退したい」と話す先代がいたとしましょう。この場合、体力的に「しんどい」ことは事実かもしれません。
ただ、引退したければ即座にその場を去ることも可能なのに居続けるのは、「体力的にしんどいから楽になりたいけど、会社から一切手を引くことはしたくない」という本音があるからです。
こんな時は午前中、若しくは午後だけ出社してもらうなど、ある程度望みを尊重した上で、少しずつ手放してもらうのがスムーズかもしれません。
ただ、自分の意見が会社に反映されにくくなることを恐れて、意固地になっていく可能性もあるので、気遣いが必要です。
後継者としては、早く全権を握りたいという思いから、イライラすることも多くなると思います。
ここで少し検討して欲しいのは、「社員は誰の言うことを聞くのか?」ということです。
あるケースでは「封建的な先代に逆らうことは出来ない」と、後継者の言うことに社員が従わないということがありました。別のケースでは、そもそも先代が持つ独特のカリスマや稼ぐ力を評し、社員が先代に従っているということもありました。
この時何が起こっているのかを考えてみると、理由はどうであれ、後継者のリーダーシップが社員に受け入れられていないという状況があります。
このような状況の時、後継者の多くは「先代を何とかしたい」「先代の行動を変えたい」という思いを持ちがちです。
しかし、選ぶのは社員。後継者は自分のリーダーシップに何かが欠けていることを自覚する必要があります。
どのようなシチュエーションであれ、社員の人心掌握が出来るようになるためのレッスンだと捉え、自分なりのリーダーシップを生み出す機関と考えてみてほしいと思います。
「封建的」「巻き込み型」など、リーダーシップのあり方は様々です。「この形が良い」と決めつけるのは危険で、組織やリーダーの成熟度などによって、今あるべきリーダーシップの形は変わってきます。
その時、何よりも大事なことの一つが、今回のテーマとも言える言行を一致させることなのです。言い換えれば、後継者は本音に素直に従うことが大事だと思います。
その純粋なエネルギーで会社や社会を変えていくことが期待されている立場にあるのが、後継者だからと思うからです。
(参考文献:月刊次世代経営者2026年2月号)

