製造業や販売業の場合、常に借り入れによって運転資金を調達しながら経営を続けるケースは多いと思います。
この場合、資金ショートは会社の命取りとなりますから、経営において資金繰りを学ぶことは最優先事項の一つです。
例えば、決算上大きな赤字が出ていても、キャッシュが回っていれば会社は倒産しません。会社をいかに存続させるかを考えるうえでも重要なことです。
ただし、先代のやり方がベストだとは限りません。金融機関との付き合い方や借入金の考え方など、さまざまな考え方がありますから、税理士に話を聞き、セミナーや経営者の集まりなどに行き、自分なりに情報を収集するといいと思います。
後継者の中には「財務には強いが、営業やマーケティングに疎い」という人が一定数いるように思います。
売り上げが安定している時は、意識しなくてもよいと思えるものですが、いずれ市場と自社の商品や戦略にズレが生じることもあるでしょう。
マーケティングを学んでおくと、そうした時に自社の立ち位置を判断しやすくなります。この分野はセミナーや勉強会などが数多くあり、書籍も出版されています。
例えば、日本でもトップのマーケターと言われる神田昌典先生の初期の著書は、過激ではありますが、わかりやすく書かれており、お勧めです。
他には「100円のコーラを1000円で売る方法」で有名な永井孝尚先生の著書もよいと思います。
本を選ぶ際には、「知識」よりも「ものの見方が獲得できるもの」を選ぶと、これまで見えなかったものが見えてきます。
後継者が仕事を学ぶ場合、現場と先輩(あるいは先代)からのOJTでしか学んでいないケースが多いようです。
ただ、それだけで「経営者の視座」を獲得することは難しいと思います。
さまざまな情報を得るためにも、「外へ出る」ことは重要です。
後継者の役割の一つに「経営の司令塔を担う」があります。
しかし、それを自分だけで学び、実践しようとすると、知識だけで実が伴わない「あたまでっかち」になりがちです。
また、度々お伝えしてきましたが、後継者の独りよがりで自分がしてきた努力と同じことを社員に求めると、組織は崩壊に向かう可能性が高くなります。
組織を育てるには、後継者自身の人間的成長が不可欠。そして、どんな社員も受け入れる覚悟と度量も必要です。
ただ、後継者も社員も、一足飛びに成長できるわけではありません。10年程の年月をかけて社員を育て、自分自身も成長していくのです。
そのうちに、後継者と社員とが、手と手を取り合う関係になっていきます。
こうした組織のあり方については、Googleによる研究が有名です。オールスターチームよりも、なんでも言い合えるチームの方が高い実績を上げたことが実証されています。
エイミー・C・エドモンドソン博士の著書『チームが機能するとはどういうことか』が参考になります。
ほかに、具体的にチームをつくる方法を記した一冊が、ダニエル・コイル博士の『THE CULTURE PLAYBOOK 最強チームをつくる方法 実践編』です。チームづくりで何をすればいいのか、その方法を示してくれます。
さて、後継者は、資金繰り、マーケティング、組織づくりという3つの分野について学ぶ必要があるとお伝えしました。
ただ、これらは「経営」という仕事のごく一部です。知らなくても会社を運営することは可能でしょう。
しかし、困った時や未来への希望を持てない時、こうした知識や情報は、私たちの「打つ手」を広げてくれます。
また後継者に「これだけは持っていてほしい」と思う能力が一つあります。それは、さまざまなことに関心を持つ「好奇心」です。
好奇心によって「苦しい」と思っていた仕事が「楽しい」仕事に変わることがあります。トラブルの真の理由を見抜けることもあります。
そして、まだ見ぬ未来に希望のエネルギ―をもたらすこともあるのです。そのエネルギーは、社員を惹きつけるカリスマとなり、会社を一つにまとめます。
好奇心を持って取り組めば、大抵うまくいくのです。自分のなかにある好奇心の芽を育て、新しい経験を求めて前進してください。
最後にお伝えしたいのは、「会社経営は人生を色濃くしてくれる学校」だということです。
個人が扱う金額とは桁の違うお金を扱い、社員・顧客・協力企業など多くの人と出会い、利害関係を調整する。
やりようによっては、世界の歴史を動かす歯車を大きく回すこともできるのです。
密度の濃い体験をするなかで後継者は人間を磨き、その人の評価が会社の評価となります。
親から譲り受けた会社で思い切ってチャレンジしてみれば、そこにはきっと、面白い世界が広がっていることでしょう。
令和3年より当ホームページで「2代目、3代目経営者に向けて」という形で毎月コラムを発信させて頂きましたが、今月をもって一旦終了とさせて頂きます。
長きにわたりご覧頂いた皆さま、有難うございました。
松下幸之助の言葉で、本稿を締めたいと思います。
いま立っているこの道、いま歩んでいるこの道、ともかくもこの道を休まず歩むことである。
志を立てるのに、老いも若きもない。そして志あるところ、老いも若きも道は必ずひらけるのである。
(参考文献:月刊次世代経営者2026年7月号)

