親子の事業承継では、当たり前のように起こる親子の確執。
この話をすると、ほとんどの後継者の方は、「先代である親を尊敬しているけど…」という話をされます。それはきっと本当のことなのでしょうが、実際には尊敬している相手に採る行動とは思えないことをやりがちです。
例えば、先代のトップダウンの組織を、社員からのボトムアップ組織に変えるというのがあります。
そのような場合、後継者は会議では自分の発言は抑え、社員にしゃべってもらうよう何ヶ月も根気よく努力します。
そういった成果がようやく花開き、やっと社員が口を開き始めた頃、フラッと会議に現われた先代がその様子を見て一刀両断「そんなことを議論する前に行動しろ」と。以降、全社員が口を閉ざしてしまいました。
仮に社員の議論が稚拙であったとしても、それを飛び越えて答えを断定してしまうと、やはり社員は委縮してしまいます。これではせっかくの数カ月の努力は水の泡です。
そんなことがあると次に後継者は先代の意見をいかに社内で語らせないよう、色々と画策をし始めます。
しかし、先代の言葉を表面的に封じ込めても、社員は先代の存在そのものにプレッシャーを感じ、変な忖度を行うようになります。ある意味、先代に余計に社員の注意が集まり、まさに本末転倒な状況になってしまいます。
では後継者はどうすれば良かったでしょうか?
まず基本的に、人は何かを強要しようとすると反発する、ということを意識した方が良いかもしれません。
「宿題しなさい」と言われると「今やろうと思ったのに、言われたからやりたくなくなった」なんて口ごたえをする子供がいますが、これはある意味、人の本能とも言える行動の様です。強制を含む言葉は反発を生みます。
同様に先代に対しても、強いプレッシャーを与えると、反射的に「押されてなるものか」と反発します。先代にしても、あまり口を出してはいけないということは、頭では分かっています。
しかし、ついつい口を出してしまうというのが本音でしょう。そんな時に「親父は黙ってくれ」という態度を取れば、逆に余計に口出したくなるのです。
世の中にはコミュニケーションの達人とも言える人がいます。
そんな人はこのようなケースでは、先代の言うことを上手に聞いて、先代が喜ぶような反応をするそうです。
一方で実務的な部分において、後継者の考えと先代の考えが違う部分があると、後継者に相談に来るそうです。そして、先代のメンツを潰さないように、上手に意見を誘導してくれます。
要するに、基本的に先代を良い気分にさせる様な受け応えをしているのです。
ちょっとした自慢話には大げさに驚いてみたり、要所要所、先代を凄いと持ち上げたりします。それでも言うべきことは言います。
それが通るのは、先代から見てその人は自分のことを分かってくれている、という思いがあるからの様です。
「人は鏡」とよく言われますが、先代が頭ごなしに自分を否定していると感じたら、そもそも自分が先代の思いや言葉を頭ごなしに否定しているのではないでしょうか。
強制すれば反発するし、相手に自分都合の態度を取れば、相手も自分の都合を取り始めます。
逆に、相手を喜ばせると、自分にも喜ばしい結果が返ってくる可能性が高まります。大事にした相手からは大事にされますし、尊重した相手からは尊重されます。
そう考えると、どちらが先かということはひとまず置いておいて、こちらから武装解除をするしか無いのではないでしょうか。
後継者という立場に立つと、相手もコントロールしようと必死になります。
しかし、どこまで行っても相手を完全にコントロールするのは不可能です。ならば「コントロールなんてできない」という前提で生きるしかありません。
これは相手を受け入れるということなのです。実は社員との関係も同様です。
社員には色々な人がいて、どんなに手塩にかけて育てても、ある日突然退職届を提出してくる人は普通にいます。あれだけ言ったのに同じ失敗をする人、会社の売上を毀損するような失敗を犯す人など、色々なことが起こります。
そういった失敗を含めて受け入れることが出来なければ、社員なんて雇うことは出来ません。
つまり後継者は、先代を受け入れ、社員を受け入れ、そして会社の周囲で起こるすべてのことを受け入れることを試されているのです。
そういう意味では、このような先代とのやり取りは、ちょっとした通過儀礼と言えるかもしれません。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年4月号)