―お手並み拝見―後継者が親の会社に入社した時、多くの社員はこんな目で見ているのではないかと思います。
これは決して意地悪な訳ではなく、後継者というのは途中から組織に入った異質な存在。しかも現社長の子供であるという、そこそこ存在感のある人間をどう評価すべきか、決めあぐねている状態だと思います。
古参社員としては、自分の敵になる人間か、それとも味方になる人間かを測りかねているのです。
結論が出るまでは、近づき過ぎず、離れ過ぎず、という状態を保とうとすることが多いように思います。
ところで、組織がチームとして機能するために必要なものは何でしょうか?
きっといろいろな要件があろうかと思いますが、大事なのは「繋がり」ではないかと思います。
実は、後継者の多くは「繋がり」を無視して、自身の命令に社員を従わせようとします。
そのため組織崩壊を起こしがちです。その背景には「人は命令で動かす」という誤解があるのではないでしょうか。
後継者が組織について学びたいなら、社外の経営者団体に所属し、そこで何かしらの役割を受けることをお勧めします。
なぜかと言うと、人を動かすことの難しさを学ぶことが出来るからです。
会社という組織の中では、社員は人事権の持つ人の言うことに従わざるを得ません。上司の命令に従わなければ、自身の立場が危うくなるからです。
しかし、社外の団体においては、そのような人事や報酬にまつわる力学は効きません。役割を受けた人は、メンバーに動機を与え、動いてもらうよう導かなければならないのです。
これがとても難しいのですが、では具体的にはどうすれば良いのでしょうか?
答えはもちろん一つではありませんが、前提としてある一つの法則をお伝えしたいと思います。それは「熱は一足飛びに伝わらない」ということです。
熱を伝えるためにまず始めにすべきことは、立場的に近い人と「繋がる」ことです。
例えば、後継者が役員であるとしたら、役員の人達と繋がります。恐らく先代もそこに含まれるでしょう。
「いやいや、そうはいっても先代とは意見が合わず、いつも喧嘩ばかりしている」、そんな方も多いかもしれませんが、ここで言う「繋がる」というのは、完全に意見が一致しているということではありません。コミュニケーションが取れていることを指しています。
良いことも悪いことも、意見の合うことも合わないことも、とりあえず話をして、お互いの考えを知っているし、知ろうとしている状態です。
私も職業柄、様々な組織とお付き合いをさせて頂いておりますが、活性化している組織は規模の大小にかかわらず、上層部がしっかりと繋がっています。分かりやすい言葉で表現すると「仲良し」です。
暇さえあればコミュニケーションを取っています。移動が必要な際は同じ電車や車で動き、一緒に行動していることが多い。
精神的に繋がろうとすると、物理的にも近づくことになるのでしょう。
ただ繋がっていると言ってもオープンなものとクローズドなものがあります。クローズドな仲良しは排他的になりやすく、組織としてマイナスの影響を生むことがあります。
そうなると密室政治の印象を与え、組織全体としては「偉い人と、そうでない人」という境界線が色濃くなりがちです。
役員の人達はオープンな仲良し状態、つまり誰でもそこに入れるけど、いつもしっかりコミュニケーションを取っている。それが出来ていれば、熱が伝わりやすくなるのではないかと考えております。
ではそのような状態はどうすれば実現するのでしょうか?
そこで大事なのは「相手を受け入れる」ということです。
意見の違う相手を受け入れるのは、ちょっとした苦行かもしれません。しかし、それこそが人の器を大きくし、後継者が経営者となる成長の階段の一つではないかと思います。
その「受け入れる」気持ちをもって、まずは近い人と繋がり、それを少しずつ広げていきます。役員から、部長、課長、係長……。
頻度は限定的だったとしても、課長、係長との関わりも定期的に持つようにすることを意識してはいかがでしょうか。それは、役員を飛ばして思いを課長に届けるということではなく、役員、部長、課長と熱が伝わっていくのを補完するイメージです。
言葉として伝えるべきは、直属の上司に任せれば良い。ただ、後継者との繋がりをつくるために、コミュニケーションが必要なシーンも多々あります。
「繋がる」ということを意識してみると、組織の中に新しい発見があるのではないでしょうか。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年8月号)