先代から会社を引継いだ後継者が、張り切って経営に乗り出す際に経験することが多いのが、大量退職です。ひどい場合には「クーデター」を経験する後継者もいるかもしれません。

急な経営方針の転換への不満、後継者に対する不信、後継者の独善的なマネジメントへの反抗心など、様々な理由が考えられます。

大量退職のような騒動の渦中にいる時、後継者は「自分が正しい」という前提に立っていることが多いと思います。「社員は間違っている。なのになぜ正しい自分に従わないのか?」と考えているケースがほとんどなのではないでしょうか。

逆に社員は社員で「後継者が間違っている」と思っていますから、平行線です。

大量退職やクーデターは、起きて初めてその兆候に気付くことが多いものですが、事前にその空気を察知したとしたら、どうすれば防止できるのでしょうか?

 

ある組織では、リーダーが運営に携わる社員から“総スカン”を食らったケースがありました。

そのリーダーは決して組織運営に対して不真面目だった訳ではありません。個人的な任務は一生懸命こなし、自分がやるべき努力は120%の力で取り組んでいました。「リーダーは、そうやって背中を見せるもの」と思っていたようです。

しかし、社員からすると、組織を共に動かすメンバーとして見てくれていないと感じていました。

リーダーとしては「自分を見習って、各自の持ち場をしっかり守れ」という思いでいましたが、仕事を依頼した後は何の声掛けも無く、頑張っても頑張らなくても労いの言葉すらないのです。

「仕事なのだから誰に褒められなくとも、ちゃんとやってくれ」という思いなのでしょうが、そういう空気は組織をどんどん疲弊させてしまいます。

 

社員は雇用契約の中で、給料をもらって働いています。

しかし、ただ「お金だけの関係」を続けていても、社風は良いものになりません。社員は「やらされ仕事」に終始し、会社の空気は良くならないのです。

一方で人は多くの場合「誰かの役に立ちたい」という思いを持っています。例えば、お客様から感謝の言葉を頂いたとき、社員は輝くような笑顔を見せるはずです。それは「お客様の役に立てた」という悦びを得るからです。

社員はリーダーであるあなたの役にも立ちたいと思っているはずです。にもかかわらず、マニュアル通りの仕事をすればそれでOK。仕事を頑張っていようがいまいが、何の声掛けも無い。それでは、社員は誰かの役に立てた実感が得られず、働く意義を見失います。

そんな社員を鼓舞するには、後継者がしっかり社員を見て、適切に声掛けをする必要があります。

 

やるべきことは簡単です。毎日社員の顔をしっかり見て、その変化に気付くこと。元気無さそうなら「何かあった?」、嬉しそうなら「良いことあったの?」と声掛けをすることです。

仕事においても「この前お願いした仕事の工夫、すごく良かったよ」「ここはもう少し気をつけてね」といった、ちょっとした声掛けが社員の目を輝かせます。

こういうことを器用に出来る後継者もいますが、職人タイプの後継者は苦手かもしれません。そういう人は、自分にこんなワークを課してみてはいかがでしょうか。

社員全員の「良いところ」を100個書き出してみる。書き出せないほど社員のことを知らないのなら、書き出すために彼らと会話する機会を持つのです。

ランチに誘うのでも、飲み会をするのでも良いでしょう。ちゃんと社員の個性を知ろうとすることが大事です。

100個というのはなかなか大変ですが、ある経営者はこれをやったことで、社内の空気は随分変わったそうです。

 

いかがでしたでしょうか。

ある調査では、会社が社員に対し「あなたのことをちゃんと見てますよ」というシグナルを発することで、離職率が劇的に改善することが分かっています。

そう考えると、大事なのは「社員の居場所がこの会社にはある」ということを実感してもらうよう、経営者が行動をすることではないでしょうか。

(参考文献:月刊次世代経営者2025年8月号)