後継者の皆さんの中で、奥様やお子様に何か問題が起こっている、という経験をされた方はいらっしゃらないでしょうか?

例えば、奥様が精神疾患に罹ったり、お子様が学校へ行くことが出来なくなったり…

 

このようなことは一見仕事とは全く関係が無い話の様に思います。それ故、こういう家庭の話は、ビジネスシーンで話すことは殆ど無いと思います。

しかし、様々な経営者・後継者の方と話をする中で、何かの拍子で家庭の話が出た時に「配偶者に病気が見つかった」「子供が不登校になっていた」といった話がぞくぞくと出たことは無いでしょうか。

このような経験をされた経営者・後継者は世の中に結構多くいます。そういったこともあり、実は仕事と家庭は繋がっているという考え方が心理学の分野であるのです。

 

仕事においては、後継者は会社の中心です。それと同時に、家庭においてもその中心にいる訳です。同じ人間が中心にいる以上、会社でも家でも同じ振る舞いを無意識に取っている可能性は高いと思います。

例えば会社が上手くいっているとき、それは後継者がワガママに采配を振るっている時ではないでしょうか。社員の意見を聞かず、自分のやりたいようにやる。

すると社員は後継者に依存するようになり、後継者の意識は会社に強く引き寄せられます。

この時、後継者は家でも自分のことばかりを優先しがち。家族はあなたに頼りたいと思う時があっても、あなたは仕事が忙しく家にはいない。結果として、ストレスや負荷が家族にのしかかります。

実は会社の中でも同じように、社員には一定程度のストレスや負荷がかかっている可能性は高いと思います。家庭という小さなコミュニティとは違い、会社には人が多いのでそのことに気付かず突っ走ってしまいがちです。

結果として、組織は崩壊に向かい、その先に後継者の多くが経験する、大量退職やクーデターというシナリオも予想されます。

ではこのような最悪のシナリオを回避するには何をすれば良いのでしょうか?

 

社内や家族に不調を訴える声が聞こえ始めたら、後継者は社内の組織を見直すことをお勧めします。

先代が作ってきた組織は、後継者の個性とは合わない場合もあるでしょう。また、会社や社会の変化の中で、組織をバージョンアップする必要が生じているかもしれません。

大事なのは、後継者の意思決定や能力に依存させない組織を意識する、ということではないかと思います。そのためには、後継者自身、握っていたハンドルから手を放す様な勇気も必要になります。

というのも、上手くいっている会社の社長は、社員とのコミュニケーションと、社員に対して使う時間がとても多いのです。

一人ひとりの給与明細に手紙を添えたり、社員の家族とのコミュニケーションを取ったり、1on1の時間を取ったり、毎晩社員とサシ飲みをしたり…結果、後継者が仕事に直接かかわる時間は削られます。

しかしあえて実務の最前線から降りて、社員を育てていくところに視野を持っていくべきタイミングなのではないでしょうか。

そうやって、社員の声に耳を傾ける癖がつくと、家庭にも平和が戻ってくる事例は少なからずあるようです。

 

創業者と後継者の大きな違いの一つは、会社のステージの違いです。

創業者は、導入期から成長期まで、勢いで会社を伸ばしてきたことでしょう。ある意味なりふり構わず猪突猛進の様相で、数字を伸ばすことを最優先で頑張ってこられたことと思います。

一方後継者の時代には多くの場合、階段の踊り場が遠からずやってきます。その時に体制を整え、次のフェーズへ向かう会社にしていくわけです。自社のステージが今どこにあるのか、ということを意識するのはとても大事なことです。

今回の「家庭内の問題が起こるタイミング」は、そんな会社のステージを計測する1つの物差しになる可能性はあろうかと思います。頭の片隅に置いて頂けると、お役に立つ日が来るかもしれません。

(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年5月号)