私は税理士事務所を開業して今年で10年以上が経ちました。
その間、色々な経営者とお会いしてきましたが、中にはベンチャー起業家とお目にかかる機会もありました。
しかしながらビジネスを立ち上げるというのは難しいもので、彼らのほとんどは、数年後には連絡が取れなくなりました。
改めて「ベンチャー」という用語の意味について紐解いてみますと、多くの場合、誰も手を付けていない分野に着目し、そこでの課題解決をビジネスとして組み立てていくものです。
努力の結果、ビジネスが軌道に乗り始めても、法規制が厳しくなったり、社会が変化したりすることによって、計画通りに進まないことも多々あります。
そんな中、ごくわずかな起業家だけが、その変化の波を乗り越え、事業を軌道に乗せることが出来ます。
では失敗に終わった起業家と、成功する起業家、その違いは果たしてどこにあるのでしょうか?
当初私はビジネスモデルの秀逸さがその差である、と考えましたがどうもそうでは無い様なのです。
結局のところベンチャー企業の成功は、起業家自身のエネルギーの強さに依存するのではないかと考えます。
では、その起業家たちのエネルギーは果たしてどこからやってくるのでしょうか?
近年は、社会課題解決のための起業が話題になることが多いようですが、みな社会課題解決に燃えているかと言えば、そうとは言い切れないかと思います。
ほとんどの場合、そのモチベーションの源泉は個人的な理由や事情にあるのではないでしょうか。「認められたい」「お金持ちになりたい」といった思い、あるいはコンプレックスの反動や負のエネルギーであることも少なくありません。
それらの良し悪しはともかく、成功する起業家は「どうしてもやり遂げたい」という強いエネルギーを持っています。社内外で起こる様々なトラブルに対して、不屈の闘志を燃やし、不退転の姿勢を貫けるのも、そのエネルギーの強さゆえではないでしょうか。
一方、後継者は「線が細い」と言われることが多い様に思います。先代・創業者と比べて、経営者特有のギラギラ感をもっていないことが、このような表現に繋がるのでしょう。
確かに親が経営者である場合、子どもである後継者は、比較的温和で物分かりが良い人が多い印象を受け、野武士のような先代とは正反対に見えます。
なぜかと言うと、一般に後継者は経営者としての「動機」が希薄なのではないか、と思います。「親が経営者だから後継者をやってますよ」そんな感じで、どちらかというと「自分都合」ではなく、親のためだったり、世間体のためだったりするのではないでしょうか。
あるいは、他にやりたいことも無かったので、消去法で親の会社に入った人も一定数いると思います。
先に、起業家のエネルギーは「個人的な理由」とお話ししましたが、後継者の多くは「親を含む他人との関係を整えるため」後継者でいる、という選択をしているように思います。
そして、後継者は自分のエネルギー不足を自覚しています。だからそれを、知識やノウハウでカバーしようとしているのではないでしょうか。
しかし、先にお話しした通り、会社の存続・発展はテクニックや知識ではなく、エネルギーにかかっているのです。
では、後継者の「個人的」エネルギーというのはどこから湧き上がってくるのでしょうか?
その答えですが、まずは自分のことを知ることから始める必要があります。
とある後継者向けのワークショップでは、ある質問を後継者に投げかけているようです。その一つが、「あなたの夢は?」というもの。
この質問に、多くの後継者はワークシートを前に固まってしまうそうです。そして「こんなこと、考えたことが無い…」と唸りだすのです。
親の会社を継ぐとして、果たしてその先に何があるのか?親の会社をしっかりとついだ自分の未来に何を求めるのか?そんなことを考える時間を持つことが大事なのではないでしょうか。
そこで見つけた、やりたいこと、なりたい姿こそが、後継者にとっての会社を動かすエネルギーになると思います。
この時に大事なのは、「他人から与えられたゴール」に惑わされないことです。
例えば、会社の社員数を増やし、売上を増やすことが自分の夢だ、と認識しているとします。けれど、それは本当なのだろうか?本当にその夢にワクワクするのか?と一度問い直してみて下さい。
特に後継者の場合、親の会社を少しでも停滞させると、自分のメンツを失うという強迫観念にかられることが多いと感じます。そういったストレスは周囲にも伝播する可能性が高いので、注意が必要です。
自分を守ろうという情熱で組織を動かそうとすると、組織の反発を受けます。
それと後継者によくある誤解は、ゴールを事業承継の完了とすることで、実はそれは過程であってゴールではありません。
更に言うなら、それは手段であって目的ではありません。
誰にとっても大事なのは、どのような人生を生きるかということであり、事業承継や会社経営はその手段でしかありません。
良き人生の基準は人それぞれあるでしょう。
ただ、ある研究によると、何かに没頭できることがその入り口であるという考え方があります。
経営というとても大きな役割の中で、どんなことなら没頭できるだろう?そんな問いを持ちつつ、会社や自分の将来について考えることが、後継者であるあなたのエネルギーを生み出す源泉に繋がる道では無いかと思うのです。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年11月号)