会社経営に限らず様々な組織運営において、よく見かけるタイプの人がいます。それは何でもかんでも自分がやってしまう人。
あるコミュニティーでイベントを立ち上げた時、その人は一生懸命そのイベントの準備を行いました。
自分はリーダーという責任ある立場だから自分が頑張らねばならぬ、と。そうやって背中を見せることできっと人はついてくる、そう信じていました。
しかし残念ながら、自分が頑張れば頑張るほど、メンバーは見て見ぬふり。何だか自分だけが忙しく、辛くなってきたと言います。
このように、自分が率先垂範しないといけないと頑張った結果、社員と距離を感じたことはありませんか?それは「社員の喜び」を奪っているからなのかもしれません。
「社員は基本、サボる」…そんな考え方もあるかもしれません。
しかし一方で「窓際族」という言葉がある様に、意味のある仕事を与えないことが社員を居づらくさせるイジメとして認識されています。
一体社員は、仕事をしたいのでしょうか?それともサボりたいのでしょうか?
ある心理実験では「退屈より、痛みであっても刺激があった方が良い」という人が多いことが分かっています。ただそんな例を引かなくとも、多くの人は常に「誰かの役に立ちたい」と思っているはずです。
例えば、グルメな社員に「お客様とカジュアルに歓談できて、そこそこ美味しいお店、あるかな?」なんて聞くと、一生懸命調べてくれます。
これは仕事においても同様です。その社員が得意とするジャンルであれば特に良いのですが、まずは何かしろ仕事を任せてみる。この時、少しチャレンジが必要なレベルが高めの仕事だとベストです。
その社員が、その仕事をやり切った時、その喜びは何物にも代えがたいものがあるでしょう。
私たち後継者が、そういった仕事を任せずに、自分で先にやってしまうことは、彼らの能力やモチベーションの開花を阻んでいることになります。
つまり、後継者がやるべきことは、社員が「仕事を通じて感じる喜び」を生み出すことです。社員を自由自在に動かそうとしても無理ですが、喜びを感じれば、彼らは自ら動き始めます。
では仕事を通じて感じる喜びとは、どうすれば生み出すことが出来るのでしょうか?
ここで参考にしたいのは、心理学者のミハイ・チクセントミハイ博士が提唱する「フロー心理」です。
物事に熱中して無心の状態をフロー状態と言いますが、そこに入る条件を以下の様に論じています。
・目標が明確である
・行動へのフィードバックが即座に得られる
・程よい難易度の課題である
・活動に喜びや価値を感じる
つまり、一人ひとりの仕事の力量を正しく測り、そこから少し背伸びをした場所にゴールを設定し、進捗を都度確認し、フィードバックを行います。もちろん、その仕事の持つ意義や思いを伝えた上で。
こう考えた時、社員一人ひとりの特技や仕事の力量をどれだけ把握できているか?がとても大事になります。
私たちは、社員の仕事の結果を評価することには慣れています。しかし、社員がどんな能力を発揮できて、どんな可能性を持っているかをしっかり見ているケースは稀では無いかと思います。
出来ない社員を責めがちですが、本来は社員が持っている潜在能力を引き出すことが、私たちの仕事の一部ではないでしょうか。
小さい頃から現在に至るまで、誰もが一度は一人で、あるいはみんなで頑張ったプロジェクト(お遊戯会や運動会から、仕事上の様々なプロジェクトまで)が上手くいって、もろ手を上げて喜んだ経験があると思います。
シンプルに言えば、社員にそういう機会を提供すると、会社が上手く回り始めます。その機会を、後継者が一人で頑張ることで奪ってはいけないのです。
誰もが、人に役に立ちたいという思いを持っています。その機会を、ぜひ仕事上で作ってあげて下さい。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年12月号)