ある組織のリーダーで、こんな人がいました。
公の場では、もっともらしいことを言います。今自分があるのは皆さんのおかげだとか、皆さんが幸せであるために自分は頑張りたいとか。
しかし、なぜか彼は社員から信頼されていません。幹部社員にお話を伺うと「嘘くさい」「本心がどこにあるのかが見えない」という意見が大半です。
本人は「誰からも嫌われたくない」という思いから、教科書通りの言動に終始するのですが、残念ながらその振る舞いと本心のズレは、バレているようです。
人は自分を守るために、自分の本心を隠そうとする傾向があります。
例えば、組織のためと言いながら、本音は自分が一番大事、なんていうケースは無いとは言い切れません。
しかしながらそんな本音を隠そうとしても、隠しきれないということが結構あります。
すると、メンバーからすれば「口ではきれいごとを言うけれど、行動が伴わない信用できないリーダー」というレッテルを貼られてしまうことになります。
そうなると、リーダーの言葉はどんどん軽く聞こえるようになり、メンバーはリーダーをバカにするようになっていきます。
後継者って、ある意味きれい好きです。組織をキレイに整理して、コンプライアンスを大事にし、業務では例外が起こらないようマニュアル化を進める。
世間で言う良くできた組織像を、トレースしたがる傾向があるのではないでしょうか。
その根幹には、認められたいという思いの強さがあるように思います。
そういった心理的なプレッシャーから、自分自身も理想的なリーダー像であるべきと考え、それを体現しようとするのではないかと思います。
その努力は素晴らしいと思いますが、理想と現実のギャップにメンバーが気づくと、前述の通りリーダーに対する不信感に繋がってしまいます。
というのも人間は「見えないもの」「分からないもの」に意識が奪われる傾向があります。
自分が「表に出したくない」と思う性格を隠そうとするほど、周囲は逆に無意識に、その隠そうとした性格に意識が向かいます。
その結果、「信頼できないリーダー」という評価を下してしまう傾向があるように思います。
もし、後継者の皆さんが「今まさに、そんな状態かも!?」と思った時に、やるべきことはシンプルです。
出来ていない部分の多い自分を認め、それを公言することです。
「リーダーとしてこうあるべきだと思って頑張ろうと思う。だけど今はまだ出来ていないから、みんなの力を借りたい。」そう言って頭を下げれば良いのです。
自分にとってのコンプレックスは、自然と浸み出しているようです。自分では隠しきっているつもりでも、しっかりと周囲の人は感じ取っています。だから隠す意味は無いのです。
逆にそういった部分も含めてオープンにすることで、「このリーダーは隠し事が無い」と信頼を得やすくなるのです。
これまで見た経営者の中でも、上手く組織を作っている経営者は、大抵ご自身の弱い部分を社員がよく分かっています。
だから、ちょっとした作業も「社長は手を出さないで下さい。余計に面倒なことになりますから、社長のやるべきことに集中して下さい」と言われ、社員が社長を現場から追い払うといった微笑ましいシーンに遭遇することもありました。
世のため人のためと言いながら、ゴミをポイ捨てしている人、他人に対して悪態をつく人を信用できるはずもありません。
経営者は聖人君子ではありませんが、社員はリーダーの生き方を見ています。
社員への求心力を得たいなら、本音を語るということから始め」、その本音を自分が持つ理想の姿に近づけていく努力が大事なのではないかと思います。
会社というのは、人が成長するための学校だと信じてやみません。
(参考文献:月刊次世代経営者2025年4月号)