前回は特殊税務のうち、多くの税理士が取り組んでいる相続税の申告業務について、その概要をお話し致しました。
税理士事務所の定型業務である会計入力や、法人税、所得税、消費税等の申告書作成とは異なる点が多いので、相続税の申告業務を進める上での重要なポイントをご説明していきたいと思います。
1 相続は頻繁に経験できるものでは無い
よくよく考えれば当たり前の事ですが、当事者として相続を経験することは、人生のうち数えるほどしかありません。一般的には自身の両親が亡くなった場合という方が殆どでは無いでしょうか。
そうなると相続発生後の行政手続きを始めとする諸手続き、葬儀等の手配で忙殺され、慣れていないが故に精神的に余裕が無くなっている方が多いです。
そういうことを心に留めておきながら対応する必要があります。
2 相続人の悲しみに寄り添う
親族の死に目に会うというのは非常に辛いことです。ましてや若くして亡くなったり、急な病気や事故で亡くなったりした場合は、気持ちの整理がつかず、現実と向き合えないという方が非常に多いです。
しかし相続税の申告は相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内に行わなければならず、時間との勝負です。
税理士としては相続人の悲しみに寄り添いつつも、少しずつ現実と向き合って頂けるよう促していかなければなりません。
3 相続人は被相続人の財産、債務をほとんど知らない
これもよくよく考えればその通りと言った感じですよね。
最近では「終活」というのも認知され、エンディングノートを作成したりして分かるようになってきているところもありますが、まだまだ分からないという方が多いのではないでしょうか。
しかし被相続人の財産、債務がどれ位あるのか分からなければ相続税の申告は進められません。
相続人の自力で洗い出すのが困難な時は、遺品整理業者を選定しておいてすぐに紹介するなどの対応も準備しておく必要があります。
4 財産、債務の額の確認資料の取得は相手次第
相続税は被相続人が亡くなった時点の財産、債務の額を基に算出していきます。
そのためには確認資料を取り扱っている業者(預金であれば金融機関、株式であれば証券会社など)に連絡した上で、取り寄せなければなりません。
その取り寄せに掛かる時間ですが、1週間程度で届くものもあれば、数カ月掛かるものもあるなど、業者によって千差万別です。
それだけに「10ヶ月もある」とのんびりしていられないのです。
5 相続人は税理士の取り扱いに慣れていない
相続税の申告業務は事業者である元々のお客様のみならず、お客様のご紹介により親戚や友人・知人の方から依頼を頂くことがあります。
それらの方は事業者で無いことも多く、事業者とであればツーカーでやり取りできることも通用しません。
相続税の申告業務は基本「BtoC取引」であることを意識し、税務に関しては全く知らないことを前提として、より丁寧に接していく必要があります。
6 相続人全員と常にコンタクトを取れるようにしておく
財産の相続について、遺言書がある場合にはそれによりますが、遺言書がない場合には、相続人全員で遺産の分割について協議をし、分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書の作成が必要となります。
しかしながら相続人それぞれが独立して生活をしているとなると、全員が集まるというのは意外と難しかったりします。中には「面倒な話は御免!」と言わんばかりに、協議そのものに協力的でない相続人もいたりします。
しかし遺産分割協議が終わらないと、未分割の状態で相続税の申告をすることになり、税額が減額できる特例の適用が受けられなくなるケースが場合によって発生します。
そういったことを回避するためにも、相続人全員と常にコンタクトを取れるようにしておき、後ろ向きな方にも協力して頂けるよう説得する必要があります。
7 申告期限を目一杯使って申告書を作成する
相続税は特例一つ適用できるか否かで税額が数十万、数百万円変わることもザラにあります。少しでも税額を抑えるためには、これらの特例を一つひとつ丁寧に検証していく必要があります。
そのためには申告期限を目一杯(1月前位を目処)使って申告書を作成するという意識で業務にあたることが重要です。
しかし依頼者である相続人は、資料が揃えばすぐに税額を計算してくれると思われている方が多く、「まだなの?」という感じで何度も催促されたりします。
そのような時に相続税の申告業務の特殊性を丁寧に説明し、理解して頂けるようにすることも重要です。
いかがでしたでしょうか?
結局のところ、相続人の協力無しには相続税の申告業務は進められませんので、相続人の気持ちの部分でのケアが重要というのがお分かりいただけたのではないでしょうか。
次回は今回のお話を踏まえて、税理士事務所が相続税申告業務を行うメリット、デメリットをお伝えしようと思います。