どんなビジネスも、お客様がいなければ始まりません。

特に創業者は、ゼロからお客様を開拓する苦労を実体験として持っています。だから、規模に関わらず一人ひとりのお客様をとても大事にします。

とはいえ、近年においてビジネスは効率化が不可避。単価が低く、手のかかるお客様との取引は今まで通りにいかないこともあります。

そうなると後継者は「小さな売上しか見込めないお客様には、売上に応じた対応で良いのではないか」と先代に詰め寄るケースも出るのではないでしょうか。

しかし、渋沢栄一の「論語と算盤」にある「利益を追求することと、仁義や道徳を重んじることは、均衡が取れて初めて健全に機能する」との考えからすれば、先代の行動にも一理あると言えます。

この考えの根底には、実は経営の次の一手を教えてくれるのは、会社の商品やサービスに価値を感じてお金を払っているお客様であるという事実に基づいております。

そう考えると、特に今の経営を長年支えてきたお客様の真意を後継者が理解することはとても大事です。

では、お客様を理解するにはどうすれば良いでしょうか。

 

まずは、顧客データを見てみます。

大抵の場合、2割のお客様が会社の売上の8割程度を担っていることに気付きます。

個人のお客様を対象とするビジネスであれば、年齢や性別に一定の偏りが見えることでしょう。

また、法人向けのビジネスであれば、上位20%の顧客の特徴や共通点を見てみます。

手持ちのデータだけでも様々な傾向を見出せますが、その上で顧客アンケートを行うのが一つの流れです。

ではアンケートの内容はどのようなものが良いでしょうか。

 

顧客を理解するためのアンケートですので、イエスかノーで答えられるものだけでは物足りないこともある一方、自由に書いてもらう形式だと、真意が読み取りにくくなりやすいです。

もし課題が明確になっているなら、その情報を得られる設問にして選択肢を用意するのが良いのではないでしょうか。

更に踏み込むのであれば、お客様を訪問してインタビューを行うのがお勧めです。

この時、次の2つの質問は必ず行って下さい。

 

1つ目は「なぜ、私たちを選び続けて下さっているのか」です。

数ある類似業種の中から自分たちを選んでくれているのには、理由があるはずです。それを聞くだけでも、今後の事業の方向性を考える際の参考になります。

例えば「いつも迅速な処理をしてくれて助かっている」と回答されたとしましょう。

一見、良い評価を頂いており、差別化に繋がっているようにも思えますが、依頼された処理をすぐにやるのはごく当たり前の事で、やらなければ叱られる類のことです。

このように「やって当たり前のこと」しかお客様から出てこない場合は、差別化が出来ていない証と言えます。

またお客様によっては「変えるのも面倒だから、今まで通りの付き合いを継続している」というケースも存在します。

そうなると、物理的な差別化ではなく、人間関係などの関係性で繋がっている可能性が高くなります。

このような場合は、お客様を数字として捉えるのは危険です。しっかりとお客様一人ひとりと向き合い、人間関係を維持することがビジネス上も大事です。

 

2つ目は「お客様のお困りごとは何ですか」です。

そもそもビジネスは、お客様のお困りごとを解消することがその目的と言われております。

ただお客様は多少困ったことがあっても、取引業者に相談しないことが多いのです。

そんな折、別の業者からお困りごとを解消するような提案をされると、コロッと他社との取引に転じてしまいます。

そうならないためには、常にお客様の隠れたニーズを把握する努力が必要です。

「お客様とどう繋がるか」という部分では、効率化が叫ばれる現代でも、まだまだヒューマンタッチで行えることが多い様に思えます。

そう考えると、今後どんなにシステム化が進もうとも、最終決定権者が人間である間は、お客様との関係性を常に意識しておくことが大切です。

その関係作りは、先代のやり方とは違うかもしれませんが、「大切さ」に関しては未だ変わっていないと思うのです。

(参考文献:月刊次世代経営者2025年10月号)