事業承継する会社が製造業や建設業などの場合、

「職人気質」な古参のベテラン社員との関係に後継者は苦慮するかもしれません。

 

なぜ難しいかというと「価値観が全く逆だから」と言えるかもしれません。

 

製造業や建設業の現場で長年働いている人の最大の強みは、おそらく「経験」です。

製造現場では学歴などより、どれだけしっかりと製品を作り込むことが出来るかが重要です。

つまりベテランが自負する部分は、自らの経験と技術なのです。

 

ベテランが若かった頃は、子細なマニュアルも無ければ、OJTを根気よくやってくれる先輩もいなかったことでしょう。

厳しい「師匠と弟子」関係の中で長い下積みを経て今の仕事を覚えたのかもしれません。

こうした人たちにとっては、技術を取得するために費やした「過去」こそが誇りなのです。

 

一方若い後継者の場合、

人に誇れる仕事上の過去はまだありません。

そのせいかどうか、仕事上の価値を「過去」ではなく「未来」に置きがちです。

後継者はベテランについて「これまでにどんなスキルを身に着けたか?」

よりも「これからどんな働きが出来るか?」という視点で見がちなのではないでしょうか。

 

後継者のこうした視点から、

ベテランは非常に頑固で、人の意見を聞かないように見えるでしょう。

下手をすれば、後継者は自分の現場経験が浅いという劣等感もあって、

ベテランに対して苦手意識のようなものを持ってしまうかもしれません。

 

このような場合、若い後継者の行動は様々です。

  • 急いで経験を積むべく現場仕事をがむしゃらにやる。
  • ベテラン社員と対立して社内の分断の原因となる。
  • 表立った行動は取らず、内心では悶々とする…そうした苦しい状態を経験される方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、後継者がいくら頑張ったところで「この道ひと筋40年」などというベテランに仕事の経験で勝てるはずもありません。

 

ここでもう一度考えてみたいのは、

今の会社に必要な後継者は

  • これから一人前になる技術者としての後継者
  • 会社を存続させる経営者としての後継者

のどちらなのでしょうか。

 

こんな事例があります。

ある食品加工会社を先代の突然死をきっかけに引き継いだ後継者がいて、

最初のうち彼は製造部門のベテランたちに、自分の考えや指示をぶつけていました。

 

しかし残念ながらそんな後継者の指示に従う人は少なく、社内のモチベーションは急降下。何人もの社員が、後継者に辞表を持ってきたそうです。

その時彼が気付いたのは、最前線で今までの会社を一生懸命支えてきた古参社員の努力を全く認めず、修正すべき点ばかりを指摘していたことでした。

そもそも、自分が彼らの仕事における思いを知ろうともしなかったことの結果、

彼らとの分断が起こったと感じたのです。

 

そうして、辞めた社員に謝罪してその人たちの思いを聞き、

これまでの働きを尊重することを約束しました。

 

結果、何人かは会社に戻って彼を支えてくれることになりました。

それからというもの、後継者は製造担当のベテランとコミュニケーションを密にとり、次々と新しい取り組みを始めました。

 

いかがでしたでしょうか?

ベテランは過去にこだわり、後継者は未来にこだわりがち。

 

こう言うとどこまでも相容れないと思えるかもしれませんが、実はそんなことはありません。

お互い違うものを大事にしていることを認識して尊重し、

同時にお互いに自分のこだわりには妥協しない。

 

このように、後継者が考えるべきことは、

ベテランを自分好みに変えることではなく、ベテランの持ち味を、自分の考える会社の「未来」に組み込むことではないでしょうか。

(参考文献:月刊ビジネスサミット2021年11月号)

 

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