ある後継者Aのお話です(参考文献の内容をもとにアレンジした架空の人物です)。
この後継者Aは、親から譲り受けた小さな弁護士事務所を経営しています。
親が興した事業を自分にとっても天職だと感じ、喜々として仕事をしています。
仕事は丁寧できめ細やか、お客様との絆もかなり深い様です。
また勉強熱心で、様々な場へ出かけていろいろなセミナーを受講しているとのことです。
後継者の模範のようなAですが、
さらに、自社の社員を社外のあちこちの学びの場に連れていきます。
そして連れ出した先で、毎回
「素晴らしい人材に出会えた」
とその社員をほめたたえます。
しかし、数年後にはその社員は事務所を辞めてしまっているようです。
それも一度や二度の話では無く、
彼は何度も期待のホープを失っているようなのです。
素晴らしい人材と出会い、
熱心に育成しようとしているのに、
期待を背負った人材たちはなぜ、
後継者Aの元を去っていくのでしょうか。
さて、あなたの会社は、どんな業態でしょうか?
業種問わず、多くの企業は、お客様への均質な対応を目指そうと、
マニュアル化を進めたり社員教育に力を入れたりしています。
その教育の一つに、「自分の営業に同行させ、自分の一挙手一投足を見せて学ばせる」という手法をとることもあるのではないでしょうか?後継者Aのように。
製造業など均一な工業製品や、コンシューマー向けの消費財を扱っている会社であればそれでいい部分もあると思います。
しかし、弁護士事務所のような専門的な知識やスキルが必要な仕事においては、単なる顧客対応スキルのみならず、
高度な知識とそれを活用した無数の検討項目をクリアしたコンサルティングが必要で、その能力を均質化するというのは非常に困難です。
なぜならば、顧客の個別の状況や要望、そして望む結果に応じて「正解」は無数にあるからです。
またこういった業種の場合、わずかな表現の曖昧さで誤解が生じると後々大きな問題となるため、そんなリスクの高い現場をまとめるには、かなりの心労と覚悟が要ります。
そのような不安を払拭する方法として、後継者Aは「社員を自分のコピーにする」ことで回避しようと考えたようです。
「自分の全てを教える!」つもりで自社のホープを毎日自分の営業に同行させ、学ばせようと張り切っていましたが、社員はそんなやり方にうんざりしていたようです。
模範生のような後継者Aが「自分の右腕になる」と期待したホープですから、
そもそも非常に能力は高いですし、そういう人ほど自分の腕を試したくなるものです。
社長の過干渉なやり方が、能力の高い社員の可能性を摘むがごとく、その個性を押さえつけることになってしまったのは皮肉な話です。
このように「社員を自分の意のままに操りたい」という欲求を持った後継者は、実は結構いるのではないでしょうか。
後継者には先代に示しをつける気持ちが強いせいか「完璧主義」の人が多く、
失敗を極端に嫌う余り「失敗を起こさないためのマネジメント」を一生懸命やります。
その結果「自分のやり方に従うのがベストなのだ」と考え、社員に押し付けていきます。
ですが、そのやり方では「自分を尊重してくれていない」と社員は感じて離れていってしまいます。
では、とても優れていると思われたこの後継者に足りなかったものは何でしょうか。
それは起こるトラブルや失敗を含めて、結果を受容する度量ではないかと考えます。
どんなに施策を尽くしてもヒューマンエラー、システムエラーは起こります。
そういったことも織り込み済みで行うのが経営ではないでしょうか。
それらだけではなく、突然の災害や感染症、関連法規の改正や、取引先の方針転換など、経営に関してはコントロール不可能なことの方が多いのはご存じの通りです。
となると、「全てを可能な限りコントロールする」と考えるより「コントロール出来ないことも少なからずあるのが経営」という前提で接した方が現実的ではないでしょうか。
もし、自社に社員が定着しないという問題がある場合、社員や職場環境に原因があると考えるより先に、経営者としての自分自身のあり方や覚悟を問うた方が良いかもしれませんね。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2022年4月号)
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