皆さまは「夏まゆみ」さんをご存知でしょうか?

 

彼女はダンスプロデューサーとして300組以上の振付けを手掛け、延べ200万人以上に対しダンス指導を行ってきた巨匠であります。特にダンス未経験者の多いモーニング娘。やAKB48の「育ての親」としても知られ、現在のアイドル文化の基礎を作りました。

しかしここ数年は体調が思わしくなく、闘病生活を繰り返しておりましたが、残念ながら今年の6月21日にお亡くなりになられました。

 

夏さんの指導は、短期間で多くの振付けを習得させるため過酷な練習を課すなど、テレビ番組では「スパルタ教育」がフィーチャーされていましたが、その根底には夏さん曰く「人が一生懸命踊る姿を”美しい”と思います。その一生懸命のパワーに人は感動するんです」という思いがあり、言わばダンス指導を越えた、アイドルとして活躍するための心構えを教え続けたのでありました。そんな夏さんの思いが詰まったエピソードを、以前たまたま週刊誌で見たことがあります。

 

それはAKB48のダンス指導をしていた時のこと、中々振付けを覚えないメンバーに対し夏さんは何と、直ぐにAKB48を辞めるよう促したのでした。

その様子を見た運営スタッフから「彼女はまだ入ったばかりで、見切るには早いと思うのですが…」と言ったところ、夏さんから「私の中では彼女にアイドルとしてのセンスを感じておりません。それなのに無理に続けさせれば彼女が追い込まれ、辛くなるだけで、無為な時間を過ごさせることになります。それよりまだやり直しが利く早い段階で、もっと自分に合った道に進んで活躍してもらった方が彼女にとって幸せです。そう考えるとそのように導いていくのも指導者の仕事だと思います。」と言い返されておりました。

それを聞いて、指導者としての本当の優しさとはこういうことであると改めて認識致しました。

 

確かにプロである以上、お客様よりお金をもらってサービスを提供しておりますので、その仕事の専門的な知識やスキルがあって当然で、その部分では失敗は許されません。

またお金も相場がある以上、好きなだけもらえる訳ではないので、その知識やスキルを習得するのに時間が掛かり過ぎてしまってはビジネスとして成り立ちません。

そう考えると、ある一定ラインを超えても必要な知識やスキルを習得出来ていないスタッフがいた場合、指導者(経営者)はその時点で「適性無し」と判断し、そのスタッフに違う道を促すようにするのは当然とも言えます。

ただその見極めをするためには、その一定ラインの基準を作らないといけないですし、そのスタッフの言動、表情などをしっかり観察する必要があります。また見極めは冷静かつ客観的にしなければかえって相手を傷つけることにもなりますので、時として第三者にアドバイスを仰ぐと良いかもしれません。

 

一生懸命やっているけど、中々結果を出せないスタッフを抱えている経営者も多いと思います。

しかしその状況をいつまでも放置していると、自社にとってもそのスタッフにとっても精神的、経済的に良いことはありません。むしろスキル不足が原因でビジネス上の致命傷を負ってしまうこともあります。

とは言え愛着のあるスタッフに対し「適性無し」と非情宣告をするのは本当に辛いことです。ただそこはそのスタッフが別の道で長く活躍してもらうためと思って割り切ることも、経営者に求められるのではないでしょうか。