親の会社を継ぐ後継者は、会社をシステマチックに動かしたい、と思う傾向が強いのではないでしょうか。
ルールや規律を作り、そこから逸脱しない組織運営を理想としがち。物事の多くを仕組み化し、ベルトコンベアの様に仕事が出来上がっていくことを理想としている人が多いと感じます。
その背景には、将来への不安があるのではないでしょうか。
後継者から見て、先代社長の仕事内容には何をどのようにやっているかがわからない仕事がたくさんあります。
見よう見まねでやっても大体否定されますし、最終的に何が正しい状態なのか分からない、それでもいずれ会社を継いでいかなければなりません。
ならば、ある程度仕組み化を進めて、個人が抱える負担を軽くしたい、そんな本音があるのではないでしょうか。
しかし仕組み化を一様に進めていっても、大概の場合は上手くいきません。
というのもその会社が置かれているフェーズが違うからです。
経営学者のラリー・E・グレイナーが提唱する「5段階企業成長モデル」によると、企業は次のステップに従って成長すると考えられています。
第1段階:起業段階で、全ての仕事をリーダーが行う状態。一人で運営することに限界が訪れ、「リーダーシップの危機」を迎えます。
第2段階:リーダーの指示により社員が手足のように動くことが求められる状態。ここでは、社員は指示待ち化しており、次の発展への足かせとなる「自主性の危機」が現れます。
第3段階:権限移譲のフェーズが訪れます。各部門が部分最適を目指し、全体での連携が取りづらくなる「コントロールの危機」が訪れます。
第4段階:本社が制度やルール化で部門間の連携を取り、調整を掛けようとします。一方で大企業病ともいえる「形式主義の危機」に陥りがちです。
第5段階:これまでの問題を乗り越えるのが協働による成長だと言います。従来の中央集権的な組織とは一線を画する、自律分散型組織。現在で言う、ディール組織などが参考例と言えそうです。
この「5段階企業成長モデル」を読んでみると「あるある」な景色が見えるのではないでしょうか。
一般的に「売上10億円の壁」といわれるものがあって、10億円に少し満たないところで一気に会社の勢いが失速する場合があります。
この時は組織としては、第3段階への移行が上手くいっていないことが原因であることも多いようです。
そして多くの後継者が目指すのはシステム化された組織で、大企業っぽくてカッコいい第4段階ではないでしょうか。
しかし現実は第2段階の中小企業が多いにもかかわらず、後継者は第4段階を目指すことにより先代とのギャップが生まれることがあります。現場仕事にこだわりを持ち、権限委譲を進められない先代と、現場を離れたい後継者の押し問答が親子の確執になることも少なからずあります。
ただ、後継者には理想的に見える大企業風の組織も欠点があります。
それぞれ分業化が進んだ結果、全体としてのバランスを欠いてしまうことが見え始めます。
この時こそ、経営理念といった会社の原点が重要になるのと同時に、経営者自身のリーダーとしての人間性が問われることになります。
後継者にありがちなミスは「自分の責任を軽くするために組織を作る」という裏の目標で動きがちなことで、こういった独りよがりは必ず見破られます。
結果としてリーダーとしての評価は下がり、まとまりのない会社は部門間でいつも小競り合いをしているような状況に陥りがちです。目に見える問題に対処はするのですが、この状態では問題のモグラたたき状態で、いつまでたっても新しい問題が生まれ続けることになります。
今回ご紹介した段階ごとの組織の成長は、どれが正しいというものでもありません。
どこに留まるのも自由ですが、組織を大きくするとすれば、その過程ではほぼこの段階を経るというのを実体験として感じていくことになるでしょう。
そう考えるとこの「5段階成長モデル」を手掛かりにして、自分の組織がどの段階にあり、どんな問題を持っているのかを認識し、動いていくことが後継者の重要なタスクではないでしょうか?
(参考文献:月刊ビジネスサミット2023年4月号)