税理士として活動をしていると、合併の相談を受けることもしばしあります。
その時に相談者から合併に向けて重要なことを聞かれることもありますが、私は「価値観を合わせる」ことだと答えております。違った歴史を持った会社は、違った価値観や文化を持っており、それを1つにしようとするわけですから。
しかしながら、それが上手くいかず失敗するケースが多いのも合併です。原因を探ると、大抵どちらかが力でねじ伏せることで組織の体を保とうとしたりしております。吸収合併なら主従関係が明確ですが、特に対等合併というのはかなり難しい様に見えます。
事業承継においても、後継者の代になって「価値観を共有しよう」なんて話が盛り上がることが多い様に感じます。
そして、その過程では社内の一体感を生むどころか、社内の分断を生み出している事例が散見されます。
合併ではなく同じ会社であるにもかかわらず、なぜこのようなことになってしまうのでしょうか?
一見社内の価値観を合わせるというと、とても美しいことに感じられますが、実際のところ、社員それぞれが持つ価値観がある訳です。特に、後継者が他の社員より後に親の会社に入り、そこの価値観をどうこうしようという時点で、社内にどよめきが起こってもおかしくないのではないでしょうか。
社員はこう感じるのです。「今まで信じてきたものを手放し、新しいものを信じろと強要されるのではないか?」と。つまり、相手に「心を入れ替えよ」と迫っているとも言えます。
そうなると後継者が何を言おうと、社員は簡単にコミットしてくれません。なぜなら、人にとって変化はリスクだからです。
しかも、会社全体の価値観を、何十年も一緒にやっている先代が言うならいざ知らず、ポットでの後継者に強制されたくない、と社員の多くは感じるのではないでしょうか。
本来、人は自分が関わらない形で出来た方針は、あくまで他人事としか受け取りません。
しかし、後継者としては会社としてのまとまりを持たせるため、価値観の共有にこだわります。
そんな風に後継者が必死になればなるほど、社員にしてみれば、改宗を迫る侵略者の様にしか見えてないのかもしれません。ではどうすれば良いのでしょうか?
それは、まず相手の価値観を尊重することから始めることが大事なのです。相手の思いを受け止めますよ、という姿勢を持つのです。
すると、相手は今まで閉ざしていた心を開きます。心を開いた相手は、素直に私たちの言葉を受け入れ始めます。
このように、物事は順番を変えるだけで、スンナリ進むこともあるのです。実際に皆さんもこんな経験は無いでしょうか?
ある頼みごとをAさんからされた時は断ったけど、Bさんから頼まれると断れないという状態です。
AさんとBさんの違いは、双方の信頼関係だったり、立場だったり、恩義があるとかだったりといった関係性の問題でしょう。同じことでも関係性が変われば、結果も変わるのです。
もちろん、人間関係を築いたからと言って、言いなりに出来る訳ではありません。それでも、フラットな意見交換は可能な状態になるはずです。
その後も、相手の想いを尊重しつつ、自分の想いを伝える、それは決して自分が譲歩することでもありません。
いずれにしても人間関係を築いていった中であれば、バランスの取れた価値観を作り上げることが出来るのではないでしょうか。
自分の意見を聞いて欲しいなら、まずは相手の意見を尊重してみて下さい。
きっと、団結を生み出す新たな企業の価値観が出来上がることでしょう。
(参考文献:月刊ビジネスサミット2023年8月号)