親の会社に、子息が後継者として入社した時、起こりがちなのが親子の確執。この確執を乗り越えるために、第三者は「対話を」とアドバイスします。

しかし、実際に親子が対話のテーブルに着くと、次第に語気は荒くなり、最後は喧嘩。話し合う前より関係は悪化、なんてシーンをよく見かけます。

ではその対話の場に第三者が間に入っていけば上手くいくのでしょうか?

こういった場合、親子双方が尊敬する人が入れれば良いのですが、中々そんな人は見当たらないのが普通です。

そうなると後継者自身で何とかしなければなりませんが、先代と話をする際に気を付けたいポイントを知っておけば確執は乗り越えやすくなります。

 

まず1つ目のポイントは「分かり合えると思わない」です。

そもそも後継者と先代が対話のテーブルに着くときは、相手に自分の主張を受け入れて欲しい、という思いがあるのではないでしょうか。

これは相手である先代に「理解して欲しい」「認めて欲しい」という行為を要求するもので、簡単に言うと先代に思考や方針を変えて欲しい、と要求している状態です。対話と言いつつ後継者は、実は自分の要求を受け入れてくれるべき、という前提で話していることが多いのです。

となると、先代がそれを拒否した時点で「なぜ!?」と頭に血が上りがちです。

しかし先代としても親子だからと言って、受け入れられないものは受け入れられません。

こうやってお互いが自分の正しさを主張し始めると、解決の糸口は見つかりません。だから敢えて「後継者の提案や要望は、通らない可能性が高い」という前提で話し合いに臨んで欲しいのです。

そこで初めてフラットな話し合いが可能となります。

 

2つ目のポイントは、相手である先代への配慮が欠かせません。

親にとってこれまで守り育てた事業は、自分の子供と言ってもおかしくない位の愛情を持っています。実の子とは言え、その事業を自分以外の人に託すというのは、相応な覚悟が必要です。

しかし私たちは、親子であるとか、後継者、つまり将来の経営者といった理由から、相手に高圧的に接することで、得てして話し合いをより難しくしてしまっております。

また、そういった人情論を脇に置いたとしても、交渉相手を尊重するというのはとても重要な要素です。ケンカ腰で持ちかけられた話に、いったい誰が賛成するのでしょうか?

お互いが尊重されている関係であって初めて交渉がフラットに行えるはずです。

 

最後3つ目のポイントは、経営者として長く会社を牽引してきてくれた先代をリスペクトするということです。

後継者の主張として「新しい時代にマッチした経営を」ということがあります。

確かに社会は昭和とは違ったフェーズにあり、それに合わせて経営も変えていく必要があります。

そこで、後継者は「古いものをやめて、新しいものを取り入れよう」という主張をします。実はこれ、先代の歴史を否定していることになります。

もちろん後継者にそのつもりは無くても、先代からすれば自分がやってきたことが否定されたように思え、ついつい対決姿勢になってしまいがちです。

相手のファイティングポーズを解くには、先代のやってきたことを最大限に尊重することです。

そして、その当時の判断が正しかった前提で、時代に即した修正をしていく、という体にするのが良いと思います。

些細なことかもしれませんが、そういった小さな配慮を積み重ねることで、親子の確執の芽を摘むことが出来ます。

 

ここまで後継者と先代のコミュニケーションにおける3つのポイントを見てきました。

人を驚かせるようなノウハウがある訳でも、ある日突然何かが変わるようなスキルがあるわけでもありません。

ただ私たちは多くの場合、合理性を過大評価しすぎです。合理的判断がどの程度尊重されているのかというと、意外と少ないもので、多くのことが感情で決まります。

それであれば親子の関係においても、感情に配慮する必要があります。

 

世間では「心理的安全性」が注目されていますが、後継者は先代の心理的安全性を意識すると、コミュニケーションがスムーズになります。

そして、心理的安全性が確保されると、率直な意見交換が可能になります。

これは経営者と社員、リーダーと部下の関係で語られることが多いのですが、後継者と先代という関係の中でも有効な話だと考えています。

お試しいただければ幸いです。

(参考文献:月刊ビジネスサミット2024年1月号)