令和8年3月31日に成立した税制改正法では、「物価高への対応」が最優先課題とされました。

本コラムでは、企業の実務に直結する「マイカー通勤手当」および「食事補助」の所得税法上の非課税限度額の拡充について、ポイントを絞って解説します。

 

1. マイカー通勤手当の非課税限度額の引上げ

【改正の概要】
所得税法上、通勤手当は一定の限度額まで非課税とされていますが、マイカーや自転車などは今回の
改正で、長距離通勤者へのさらなる配慮と実態に即した労働環境の整備を目的として、段階的な見直しおよび新制度の創設が行われました。

【改正の具体的内容】
①「片道65km以上」の距離区分の新設
片道の通勤距離に応じた区分が見直され、「片道65km以上」という長距離区分が新設されました。これにより、遠方から通勤する従業者の税負担が大幅に軽減されます。

②「駐車場代」の非課税限度額の新設(画期的な新制度)
駐車場代に対する非課税枠は従来認められていませんでしたが、今回の改正により、以下の「一定の
要件」を満たす場合に限り、1カ月当たり上限5,000 円までの駐車場代を非課税枠に加算できる制度が創設されました。

<駐車場代非課税化の適用要件>
場所の要件: 勤務場所の周辺、または通勤のために利用する公共交通機関の駅・停留所などの周辺にある駐車場であること。
距離の要件: 通勤距離が片道2km以上であること(※片道2km未満の近距離通勤者は対象外)。

 

2. 食事代の非課税限度額の引上げ

【改正の概要】
事業者が従業者に提供する「食事代(食事補助)」の非課税基準が劇的に緩和されました。 この制度
は昭和50年に創設され、昭和59年に月額3,500円に引き上げられて以来の改正となります。

【改正の具体的内容】
① 食事の現物支給(お弁当の支給や食堂での食事補助など)
事業者が従業者に食事を現物支給(またはチケット等で補助)する際、所得税が非課税とされる事業
者側の負担額の上限が、現行の2倍超に拡充されます。
・現行:月額 3,500円(税抜)⇒改正後: 月額 7,500円(税抜)

② 深夜勤務に伴う夜食代(金銭支給の特例)
深夜勤務者に対して「社内に調理施設がない」などの理由で現物支給が著しく困難な場合に限り、例
外的に金銭支給での非課税が認められていますが、こちらの支給額の上限が現行の2倍超に拡充されます。
・現行: 1回当たり 300円(税抜)⇒改正後: 1食当たり 650円(税抜)

■実務上の留意事項(福利厚生費の2要件)
今回の改正で上限額は「7,500 円」へと引き上げられましたが、食費補助を「福利厚生費(非課税)」として処理するための大前提である以下の2つの要件の必ず両方を満たすように管理してください。

従業員の自己負担要件: 役員または従業員が、食事代の半分(50%)以上を負担していること。
事業者側の負担額要件: 事業者の負担額が月額7,500円(税抜)以下であること。

【留意点】
事業者の月間負担額が7,500円を「超えてしまった」場合、超えた部分だけが課税されるのではなく、事業者が負担した「全額」が給与所得として課税対象になります。

1円でも超過すると従業者に所得税の負担が発生するため、人事・労務担当者による毎月の上限額管理・チェックが極めて重要となります。

【要件を満たさない具体例】
1か月当たりの食事の価額が 13,000 円 で、従業者の負担額が 5,500 円 の場合、本人負担が半分(6,500 円)に届いていないため要件を満たしません。 したがって、食事の価額13,000 円と本人負担額5,500円との差額7,500円が従業者の給与として課税されます。