去る3月31日に令和7年度税制改正法が成立しました。

今回の改正の目玉はやはり「103万円の壁」見直しに対応した基礎控除の引上げ、及び給与所得控除の最低保証額の引上げ、並びに特定親族特別控除の創設かと思います。

これにより主婦や学生などのパート、アルバイトスタッフの働き控え解消が期待されております。

また今回の3月決算法人の申告より新たな賃上げ促進税制が適用となり、赤字法人でも対象となるなど、「人件費」に関する政府の後押しは相当なものがあります。

しかし残念ながら日本の中小企業の多くは中々賃上げが出来ていないと言われており、このままでは税制優遇の恩恵に与ることは出来ず、人手不足解消は全て絵に描いた餅となってしまいます。

ではどうすれば賃上げが出来るのか?法政大学元教授で「人を大切にする経営学会」の会長である坂本光司氏は以下の様に述べております。

 

『会社が社員に払うべき適正な年収は、私は年齢の15倍程度だと考えています。例えば40歳なら600万円、この額はだいたい都道府県職員の水準に相当します。

「きちんと賃金を払っている」と言えるのは、この水準からではないでしょうか。

しかし日本の中小企業の中には、40代で年収400万円以下の会社も数多くあります。

「中小企業の社員は大企業の社員よりも能力が低いので、賃金が低いのも仕方がない」ということを言う人がよくいます。

しかし、社員の能力のせいにするのは大きな間違いで、そこは会社規模の大小で差はありません。あるとすれば、社員の能力を引き出せない会社の方の問題です。

今は人が会社を選ぶ時代です。人から選ばれない会社に将来はありません。

 

多くの中小企業は、自らの立ち位置を誤解し、大企業と同じ舞台で戦おうとします。

そこで中小企業が生きようとするなら、下請けという形態を取らざるを得ません。この状態を続けていく限り、高賃金化は望めません。

現代日本ではニーズの多様化がますます進んでおり、目を向ければ多種多様な隙間需要が存在しています。中小企業にとっては、まさにチャンスです。

まずは脱下請けを目指し、価格決定権を握り、自らの付加価値を高めていく。それが中小企業の生きる世界であり、高収益化の実現、ひいては高賃金化に繋がる道です。

 

そして企業経営の最大の使命とは「社員とその家族を幸せにすること」です。業績や成長なども、すべてはそのための手段でしかありません。

しかし、経営者の多くは人件費をコストとして捉えています。式で表すなら【利益=売上高-費用】となります。

この式では「利益を増やすこと」が目的となり、そのために売上高を増やすか、費用を抑えるしかありません。

つまり利益捻出のためには、人件費をなるべく抑える、状況によっては削ることもこの式においては正当化されます。

しかしこれは間違っています。

先にも申し上げた通り、会社の使命とは社員を幸せにすることです。そうすると「人件費を払う」とは、会社の目的そのものです。

それを踏まえた上で先の式を、次のように置き換えてみて下さい【費用=売上高-利益】。

費用を左辺に入れ替えただけだと思われるかもしれませんが、こうすれば考え方も変わってきます。

社員に報いるために総人件費がどれくらい必要なのかをまず設定する。

そこから逆算して経営計画を立て、どれ位の売上高や利益が必要なのかを割り出す、という順番で考えるのが、本来の経営の在り方です。』

(参考:月刊ビジネスサミット2022年5月号)

 

いかがでしたでしょうか?

正に逆転の発想という感じですが、人手不足の現状を打破するためには、一度この考えに則って事業計画を立てて実行あるのみですね。