先月のコラム36で日本柔道の「お家芸復活!」という内容で、井上康生前男子監督の取り組みをお話しさせて頂きました。そこでは試合内容を分析(Check)する部署を設置し、練習や実践に生かしたことで好成績に繋がったことをご紹介致しましたが、実はもう一つ大きな取り組みをしておりました。

柔道は1964年の東京オリンピックの競技として採用されて以降、瞬く間に海外に普及して参りました。それは柔道の裾野が広がったという面では非常に喜ばしい反面、日本と海外との根本的な考え方の違いや柔道への本質的な理解が不足した影響からか、結果至上主義がもたらす小さなポイントを狙っての技の仕掛け、ポイントが取れたら反則スレスレで逃げまくるなど、「しっかり組み合って技を仕掛け、一本を狙いに行く」という柔道本来の姿とはかけ離れた戦い方、いわゆる「汚い柔道」が横行する状況が生み出されてしまいました。それでも日本選手は柔道本来の姿を追い求め戦い続けましたが、海外選手のパワーと狡猾さに苦戦しておりました。井上監督はこの状況を打破するために何をしたのかというと…

何と柔道の練習はさせず、「サンボ」や「モンゴル相撲」など海外の格闘技の練習を一定期間選手にさせたのでした。何も事情を知らなければ「何をやってるんだ!」となるところですが、これによって他の格闘技から転身した海外の選手が仕掛けてくる独特な技の入り方を学ぶことができ、「汚い柔道」への実戦での対応力が格段に上がったのでした。正に「畑違い」を学んだことで、相手を自分の「畑」に引き込めるようになり、日本選手本来の強みを生かせるようになったのです。またこういった「畑違い」の練習を取り入れたことで良い気分転換に繋がり、柔道本来の練習もより集中できたという副次的な効果も生まれました。

実はこういった話はビジネス界でよくあり、優秀な経営者ほど「畑違い」の専門家の話をよく聞くと言われますし、一流の料理人であればあるほど他ジャンルの料理人と仲が良いと言われます。なぜそうするかと言えば、専門家としてのめり込めばのめり込むほど「先入観」が邪魔をし、新たなアイデアが浮かばなかったり勝手に「出来ない」と決めつけがちになります。そこで「畑違い」を学ぶことで、別の視点からアイデアを貰うこともあれば、逆に自分の「専門ジャンル」の良さを再発見することもあるからなんです。

色んなジャンルに精通し、結果を出す「オールラウンダー」な経営者は世の中で一握りです。殆どの経営者は一つのことを突き詰めて結果を出していくしかないのですが、その「専門性」を磨くためにも、時には「畑違い」を学んでみてはいかがでしょうか?