昨年10月に執筆したコラムで経営者が失敗する2つの原因についてお話しさせて頂きました。改めて振り返ると、1つは経営者が経営をしっかり学んでいないことで、もう1つは守りが弱いことであります。今回は「守り」の経営の具体的内容をご紹介して参ります。

まず「守り」の経営についての方向性ですが、①備蓄、②分散、③流動性の3つが意識すべき事項になります。備(ビ)・分(ブン)・流(リュウ)と覚えると良いかと思います。

①の備蓄ですが、急激な環境変化やリスクに直面した時に、会社を守れるだけの備えがあるか?言い換えれば、現預金残高をどのくらい確保しておくべきか?ということを考えていかなければなりません。このことを普段から意識しているか否かで、本当に危機が訪れた時に大きな差が出てきます。事業状況によって「備蓄」の適正額は千差万別ではありますが、「売上の何ヶ月分」「固定費の何ヶ月分」など「生存ライン預金残高」の設定は必須です。今まで意識してこなかった方からすると皆目見当がつかないと思いますが、私は「月商の3ヶ月分」でまずは良いのかなと思っております。事業を行って利益を出していくのであれば、経費が売上を上回ることは通常ありません。それであれば一時的に赤字になった場合でも、月商3ヶ月分の現預金残高があれば最低でも3か月は持ち堪えることが出来ますし、その間に緊急融資等の手続きも可能です。ただ金融機関も全く取引が無かった事業者への貸付けは慎重に考えますので、申込みから着金までに3カ月以上掛ることも珍しくありません。それだけに余裕のあるうちに金融機関とのお付き合いを始め、返済実績を作っておくことも準備として必要と言えるでしょう。

②の分散はリスクヘッジをどう考えていくかになります。「選択と集中」の戦略は、攻める際には非常に有効で、創業期はまず事業の大きな柱を1つ建てることが重要であることは間違いありません。しかし、その体制だけで事業を続けていくと、ひとたび環境が変化すると全滅する危険性もあります。そうならないよう、顧客や事業、取引先をどのように分散するのが最適か?経営者であれば、常に考えておく必要があります。1つの大きな柱が建った事業者は、次はその脇に2つの小さな柱を立てることから始めるのが良いでしょう。

③の流動性は変えられやすい体制を作れるかどうかになります。固定化されたものは、変えたいときにすぐに変えにくいですので、外部環境の変化に適応するには、流動性を高めておくことが重要です。具体的には固定資産なら流動資産に、固定費なら変動費にといった「お金を動かしやすくする」ことを財務上は考える必要があります。それと同様に人の思考や行動も固定化されると変化についていけなくなりますので、経営者自身の「行動の流動性」も問われます。具体的には「経営者が自由に動ける時間を確保する」「自分の考えに固執せず聞く耳を持つ」ことが重要です。かつて地球上では恐竜が圧倒的なパワーによって一大勢力を築いていましたが、気候の大変動に対応できる体で無かったため全滅してしまいました。進化生物学の第一人者であるダーウィンはそれに対し「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。」と述べています。経営の海で溺れないため、まずは出来るところから始めてみませんか?

参考文献:月刊ビジネスサミット2022年2月号(生き残るにはまず「守り」の経営から/浜口隆則)