唐突ですが、いきなりクイズです!次の3つの事業承継のうち、5年後の業績が最も上がったのは、どのパターンでしょうか?

①息子に継がせたとき

②娘に継がせたとき

③娘婿に継がせたとき

米国の研究論文によると、この答えは③の「娘婿に継がせたとき」だそうです。

これを分析して星野リゾート代表の星野佳路氏は「その理由は、先代とケンカが起こりにくいから」と言います。親子の事業承継で悩む多くの後継者も、何となく納得できるのではないでしょうか。

 

多くの後継者は、ビジネススキルや経営知識などが不足していることがコンプレックスの様です。確かにそれらも重要なのですが、実は多くの場合、スキルや知識以前に「人間関係の問題」で失敗していくケースが多いのです。

そして先のクイズへの星野氏の考察が正しいとすれば、後継者と先代の「ケンカ」をある程度抑えられさえすれば、事業承継は相応にスムーズに進む可能性が高いと考えられそうです。

 

話がここまでであれば「先代が娘婿に遠慮して会社が上手くいくなら、実子相続でも、親である先代が気を遣えば良いこと」と結論付けられそうな気もします。

しかし実際はそうとも言えない面があり、実は後継者は社員とも上手くいっていないケースが多いのです。社員の大量退職やクーデター、そこまでいかなくとも、組織の機能不全を経験している後継者は多いと聞きます。

このような場合、その後継者は「私の方針と先代の方針の違いに、社員が戸惑った結果」と考えるようですが、果たしてそれが原因なのでしょうか?

 

事業承継において、後継者は「責任を持て」と言われる割に、権限を持たされないことが多いと思います。すると後継者は「自分は一体何のためにここにいるのか?」と思い始めます。「こんなに頑張っているのだから、尊重して欲しい」という思いを強めますが、先代も社員も自分の言葉を聞いてくれないというジレンマに苦しみます。

そんな経緯があってか、後継者にとって会社のコントロールを全て握ることが、最大の目標となっているケースが多いと思います。その結果、「自分の考えることに対して、誰にも口を挟まれたくない」という思いを強くします。敢えて社員の意見を聞くことなく、全部自分で決定し、それが最善であると思い込んでしまいます。

しかし「尊重されたい」という思いは社員も同じです。例えば何か新しいこと取り組みを始める際、急に「これをやれ」と命じられても、尊重されている感はゼロ。結果としてモチベーションは上がらず、只のやらされ仕事になってしまいます。

このように「社員はリーダーである自分に従って当然!」という経営者の驕りが、実は組織を崩壊させている一番の原因なのでした。

 

もし上記の新しい取り組みを社員が計画段階から参画するとどうでしょうか?そのプロジェクトは正に「自分のプロジェクト」となり、思い入れの強さが変わってくるものです。

つまりリーダーはある意味、大人である必要があると言えるでしょう。「大人である」ということは、社員を始めとした他人を受け入れること。更に言うと、自分とは違う考えや行動を、仕事の進め方の違いや、注意関心の度合いの違いも含めて受け入れる。他社との違いを一旦認めた上で、その環境の中で自分が打てる最良の手を考えていくことが大事になります。

 

ただ当然、後継者としての「自分の意見を尊重したい」という強い思いもあるかと思いますので、「社員の意見を尊重して会社を潤滑に回したい」という思いとぶつかることもあるでしょうけど、この葛藤を乗り越えた時、初めて真のリーダーと認められるようになるのではないでしょうか?

(参考文献:月刊ビジネスサミット2022年8月号)