親子で事業承継をした会社で、親である先代と子である後継者の意見が異なるというのはよくある話です。また、後継者が先代社長について「周りをイエスマンで固めてワンマン経営を行っている」と批判しているのもよく見かけるシーンです。

しかしそういう後継者自身は、反対意見を受け入れているのでしょうか?親子の衝突があるということは、後継者自身も親である先代の反対意見を受け入れず、内心は自分のイエスマンで周りを固めたいと感じているのではないでしょうか。耳の痛い話ですが、実は後継者もワンマン経営をしたがっているのです。

 

議論に慣れていない日本人の国民性かもしれませんが、自分の意見に反対されると、急に防御姿勢を取る人が多いように感じます。反対意見を「改善のための提案」と受け取ることが出来ず、ついその意見を排除しようと、戦いを挑んでしまいがちなのです。そして心情的に相手を「敵」として認定すると、組織の空気は一気にギスギスしてきます。

例えば良く知られた大塚家具の事例は、多くの学びを得られるものでは無いでしょうか。先代と後継者が互いに相手を潰し合うのではなく、相手の意見をそれなりに受け入れて冷静に対処出来れば、もっと違った結果が出せたようにも思います。

 

このように人が何かしらの信念を持っている時、多くの場合、その信念が正しいという裏付けを無意識に探す傾向があります。会社の戦略として「通販事業を強化すべき」と考えている時には、きっと「リアル店舗終焉の時代」「Eコマースに乗り遅れるな!」というようなタイトルの本や雑誌が目につくでしょう。そしてそれらの記事を読みながら「自分の考えは間違っていない」と信念を強めるのです。

しかし経営は実際にやってみないと、何が正しくて無いがそうでないのかが分からない部分があります。専門家がバカにするようなビジネスモデルが大化けすることもあれば、満を持して始めたビジネスモデルが大コケすることもあります。

そうした前提に立つと、思い込みに近い信念はリスキーなことがあります。だからこそ、他人の目、それも批判的な目で課題を検討することがとても重要になります。生産的な議論の中では、反対意見がアイデアを磨くのです。

 

かくいう私も前職時代の飲食店マネージャーになりたての頃、目に見える成果を上げようと躍起になり、店内改革を行おうとしたことがありました。

ところが笛吹けど踊らずで誰も協力者がおらず、一向に改革は進みませんでした。そんな状況を打破したいと思い「店内改革を行いたいのですが、誰も動いてくれません。どうしたら良いでしょうか?」と上司に愚痴にも近い形で相談しました。そこで上司からは「お前は相手の目線に立ってスタッフの話を聞いているか?」と質問され、ふと自分の言動を振り返りました。

確かに若いスタッフからは稚拙な話や単なるワガママ発言も多かったというのは事実としてありました。しかしスタッフにとってみれば上司である私に何かを申し出るということは、相当な勇気がいることに思いが至らず、取るに足らないと相手にしないこともしばしばあり、そんな時は決まって自分の考えが正しいとばかりに、論破しておりました。

そうなるとスタッフも私に対して距離を置くようになり、私は店内で完全に孤立してしまいました。上司の一言で、実は自分の方が周囲の情報や協力を拒んでいたことに気づかされたのです。

 

それからは、私はスタッフからの話がどんな内容のものであれ、まずは全て受け止めるよう気を付けました。

そうすると年下のスタッフの話でも新たな気付きを得ることも多くありました。時として私に対してダメだししてくることもありましたが、カチンと来てもグッと堪えて受け入れ、冷静に店舗の為に私が取り組まなければならないことかどうか考え、判断していきました。

こうしてスタッフの意見も店内改革にも採り入れ始めたら、スタッフも喜んで協力してくれるようになりました。

 

「自分と意見が違う相手=敵」という訳ではありません。違う意見を表明することは、誰にとっても勇気の要ることです。それが後継者という会社のトップ相手であれば尚更です。「会社を良くしたい」という思いから、敢えて会社のトップに反対意見を唱える人は、本当はとても大切な協力者と言えるのではないでしょうか。

(参考文献:月刊ビジネスサミット2022年7月号)