「急速に進んでいるデジタル化に、自分の会社は対応できる体制が出来上がっていると、自信を持って言えますか?」

 

日本はコロナ禍でデジタル化の遅れが顕著となり、その反省もあって政府も躍起になってデジタル化を推し進めております。

拙速とも思える施策もあって国民の理解を十分に得られていないものもありますが、世界的な流れを考えるとデジタル化は避けては通れません。そう考えると事業者においては、今やデジタル化への対応は必須の状況になってきました。

 

ただ長年アナログで対応してきたベテランの経営者にとって、デジタル化の対応は容易ではありません。

事業承継の場においても、デジタル化を推進したい後継者と、アナログにこだわる先代が衝突することも良くあるのではないでしょうか。

 

こういったケースでは、後継者は親が経営する会社の非効率にイライラし、業務のデジタル化を推進したがります。

しかし先代はこれにNOを突き付けることが多いようです。更に「そんなことを考える前に、やるべきことをやれ!」と後継者を叱責するケースも。

こうなると後継者も「なぜ分かってくれないんだ⁉」と後に引けなくなります。「先代は結局、自分が分からないことをやりたくないだけだ」「そもそも後継者である自分のやることは、全て気に入らないんだ」などと、ネガティブな思いで頭がいっぱいになります。一旦そういう見方をし始めると、話し合いの余地は無く、双方の人格否定に話が及び収拾がつかなくなります。

親子の確執は、こういうことから広がっていくのではないでしょうか。

 

このようなとき、カッとなる前に感情を一旦脇に置くことが出来ればどうでしょうか?

 

先代はいつも言葉足らず。そんな先代が少し強めの口調で言い放った「そんなことより、やるべきことをやれ!」といった言葉は、本当に後継者への批判だったのでしょうか?

言われた後継者は「責められている」と感じがちですが、頭を冷やして振り返ると、先代は「デジタル化を進めるな」とは一言も言っておりません。

そこに気づいた後継者は「先代は自分に、どうなることを望んでいるのか」と尋ねてみました。それに対する先代の答えは「後継者は顧客とのコミュニケーションを、もっと“リアル”でとるべきだ」だったそうです。

改めて振り返ると、後継者は効率を重視する余り、顧客や会社をサポートする人たちとのコミュニケーションをないがしろにしていたと気づいたそうです。

 

後継者から先代を見た時の印象は「取引先への訪問頻度が高すぎる」「無駄が多い」というものでした。

対照的に後継者は、ほとんど関係先への訪問をしません。実は後継者も、些細なことで度々関係各所を訪問する先代へのアンチテーゼとして「ドライな関係」にシフトしてきたものの、関係各所と自分の「ドライすぎる関係」には、様々な不都合があると自分でも感じ始めていたところでした。

 

そもそもビジネスとは「お客様のお困りごとを解決する、お客様が欲しいものを提供する」ことによって成り立ちます。

更に言うとお客様の想定を超えるサービスを提供できれば、満足感を与えることができ、お得意様となってもらえる可能性がグッと上がります。

そのためにはお客様の発言のみならず、一挙手一投足に注視し、お客様が本当に求めていることを見抜かなければなりませんし、お客様が見落としていたり、意識に無かった部分も拾い上げていく必要があります。

しかしながら私も最近特に感じていることですが、オンラインでの会議がコロナ過で急速に普及し、便利さを感じている反面、お客様の表情や仕草の変化はオンラインでは読み取りにくいものです。また現場に行って得られる情報が殊の外多いことにも気づかされました。

そう考えると、お客様との関係構築にはリアルでの対面がベストと言っても過言ではなく、先代の言い分も実は的を射ていたと言えるでしょう。

 

このように後継者と先代は何かと意見が対立しがちですが、それはいわば子供の成長過程における「反抗期」のようなもので、後継者が経営者として自我を確立する過程です。

とはいえ後継者が親と戦う姿勢を崩さない限り、どんな結論に至ってもどこかしら後味の悪さを感じるものです。

それであれば、先代の思いを汲み取って、それを含めてマネジメントするのが経営者として後継者がクリアすべき課題ではないかと思います。

経営というものは、多様な人と協働して、会社の目的の実現を目指すことです。その仲間には時として想定しないタイプの人がいることもあります。そういった人でも特性を見抜き、それを生かせるように仕事をアレンジすることで、驚くほどの成果を生み出すこともあります。

後継者はそのような場を提供し、工夫をすることをチャレンジしていけば、自ずと課題はクリアできるのではないでしょうか?

(参考文献:月刊ビジネスサミット2022年12月号)