少し古いのですが、令和2年11月28日の日本経済新聞に「富裕層の追徴課税最多」という記事がありました。

その記事によると、国税庁は2019年7月から2020年6月までの1年間(2019事業年度)の税務調査などは約43万件で18事業年度から約3割減少し、追徴課税も1,132億円と約5%も減るなど、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い調査件数の減少を伝える一方、各国税局は株式や不動産などの大口所有者である「富裕層」に対する積極的な調査を進めた結果、19事務年度は4463件の調査を実施し、8割強に当たる3837件で申告漏れなどを指摘。追徴税額は18事務年度から約28%増の259億円に上り、統計を取り始めた09事務年度以降で最多となったことを発表しました。

そもそも税務上、日本国の居住者に該当すれば全世界課税となり、日本で得た所得(いわゆる儲け)のみならず、国外で得た所得も併せて申告し、納税しなければなりません。しかしながら国外に資金を移動してしまったり、国外口座内で取引を完結させてしまうと国税局側での把握は容易でなく、課税逃れが横行しているということが常態化しておりました。これは日本のみならず、海外の課税当局も頭を悩ませている問題でした。

そこでOECDにおいて、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」が公表され、日本を含む各国がその実施を約束しました。この基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供することになりました。これにより国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換される体制が出来上がりました。

実際に運用が始まるとCRS情報は非常に確度が高く、威力を如何なく発揮し、上記のように申告漏れなどを次々と指摘したのでした。

税理士としては顧客の利益を最大限守るというのが重要ではありますが、あくまでも正しい適用があった上での話です。課税逃れは明確に違法行為なので、それが少しでも是正されるのであれば喜ばしいことと考えております。以前私が関与した相続案件で、海外預金について何度聞いても「知らぬ存ぜぬ」を貫き通そうとした依頼者がいましたが、結局税務調査で丸裸にされておりました。これからご依頼を検討されている方につきましては、正しく情報を伝えて頂きたいと改めてお願いしたい次第です。

また税制を制定するに当たって重要なことの一つに「応能負担原則(所得を稼ぐ能力に応じて税を負担する)」があります。しかし株式などの金融資産は富裕層が数多く保有していながら、上記のように「逃げ足が速い」ことから、日本の税制の歴史上、常に税負担が軽くなっていました。これを機に少しでも「応能負担」が担保されている公平な制度に変わることを期待しますが、それだけではなく税理士には、税務に関する職業専門家として、税務行政及び税制について、広い知識と深い見識を有するものであることから、税理士の自治的団体である税理士会に、その意見をまとめ、権限ある官公署に建議し、又はその諮問に答申することが認められているという、いわゆる「建議権」があります。そういった部分で私も微力ながら発信していけたらと思います。